(社説)ナイル川ダム 平和的な利水の調整を

社説

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 エジプトはナイルの賜物(たまもの)。

 紀元前5世紀のギリシャの歴史家ヘロドトスの言葉である。古代文明を育んだ世界有数の大河をめぐっていま、きな臭い動きが起きている。

 上流で巨大ダムを建設するエチオピアと、下流のエジプト、スーダンの対立である。国際機関の仲介も実らず、軍事行動をほのめかすなど不安定な状況が続いている。

 どの国も短慮に走るべきではない。国連やアフリカ連合などは、話し合いによる解決を粘り強く促してほしい。

 エチオピアは9年前から「大エチオピア・ルネサンスダム」を造り始めた。総貯水量は琵琶湖の2・7倍にあたる740億立方メートルで、発電能力6千メガワットとアフリカ最大である。

 心配なのは、ともに1億を超す人口を持つエチオピアとエジプトが、簡単に妥協できない国内事情を抱えていることだ。

 世界の最貧国とされたエチオピアは、この20年で経済規模が10倍以上に。それでも電気が届くのは人口の半数以下といい、ダム発電への期待は高い。総額4千億円超を注ぎ、国家の威信がかかる。

 隣国エリトリアとの紛争解決で昨年、ノーベル平和賞に選ばれたアビー首相だが、国内では民族紛争を抱える。ダムには、多民族国家をひとつにまとめ上げる政治的効果もある。

 一方、水資源のほぼ全てをナイルに頼るエジプトは「存亡にかかわる」と危機感を強める。流量が2%減っただけで農民100万人が収入を失うとの試算もあるという。

 軍の政治介入によってその地位についたシーシ大統領にとって、正統性を保つには国民を守る強い指導者像が欠かせない。

 2年後のダム完成をめざすエチオピアは今月に試験的な貯水を始めると公言していた。ダムを満たすのに何年かけるか、下流で干ばつが起きた場合に放水量をどう調整するか、合意がどこまでエチオピアを法的に縛るか。ぎりぎりの協議が続くが、最終合意には至っていない。

 アビー氏は昨秋に「戦争になれば何百万人も動員できる」と発言した。エジプトの外相は国連で、一方的な貯水開始は「紛争を引き起こす」と警告した。ナショナリズムをあおる言葉の応酬で、さらに対立を深める悪循環に陥ってはならない。

 東南アジアのメコン川など、複数の国を流れる国際河川では他にも「水争い」が見られる。地球環境が激変するなか、2050年には世界人口の4割が深刻な水不足に直面するとの予測もある。人類にとって貴重な資源を地域全体で共有し、生かす道を探ることが肝要だ。

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