(社説)GoTo事業 立ち止まって見直しを

社説

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 これで不安が拭えるとは、とても言えない。この事業はやはり、いったん延期して抜本的に見直すべきだ。

 政府の観光支援策「Go To トラベル」事業である。国民や自治体から反対の声が相次いだため、対象から東京都民と都内への旅行を外したうえ、予定通り22日に始めるという。

 その対応は泥縄と言わざるを得ない。

 おととい開いた政府の新型コロナ感染症対策分科会は、若者や高齢者の団体旅行や、大人数の宴会を伴う旅行などは控えるよう推奨した。だが、国土交通省は、この指摘への対応をまだ決めていない。赤羽一嘉国交相はこうした旅行を支援の対象外にすることも検討する考えを示した。しかし年齢や人数の線引きは難しいため、自粛要請にとどめる可能性もあるという。

 問題の根底にあるのは、経済活動の再開を急ぐあまり、感染の実態から目をそらすかのような政府の姿勢だ。

 8月をめざしていた事業の開始を今月22日へ前倒しすると、政府は10日に突然発表した。夏休みシーズンに間に合わせるためというが、発表前日に東京の1日当たりの感染者数が過去最多を更新したばかりだった。そのため全国の自治体などから、「感染拡大を招きかねない」と反対が噴出した。

 緊急事態宣言の解除後、政府は「新たな感染者は東京都の夜の街に集中している」と強調してきた。その結果、対応が後手に回っているのではないか。実際には足元では、感染者は全国的に増加傾向にあり、経路不明のほか職場や家庭での感染者も目立つようになっている。

 今後、首都圏や関西圏などでさらに感染が拡大した場合に、事業の対象地域を迅速に見直す用意が、政府にはあるのだろうか。

 コロナ禍で苦境に陥る旅行業界の支援が必要なのは言うまでもない。感染拡大の防止と社会経済活動の両立をめざす必要もある。だからといっていま、税金を投じて旅行を促すべきだということにはならない。

 東京都の住民や業者も同じ納税者だ。東京都だけを対象外にして事業を進めるのは、公平性の観点からも疑問が残る。

 朝日新聞は社説で、事業の実施をいったん見送って1・35兆円の予算は自治体に移し、地域独自の観光支援策を後押しするよう提案してきた。どんなかたちで観光業を支援するのかという判断は、地域に委ねるべきだと考えるからだ。

 未知のウイルスへの対応は、状況に応じた柔軟さが求められる。一度決めたのだからといって、見切り発車は許されない。

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