(社説)定期払い賠償 実態に即した救済に道

社説

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 事件事故の被害の実態に即した救済に向けて、選択肢が広がることを歓迎したい。

 交通事故に遭い、後遺障害が残ったために得ることができなくなった収入を、どうやって賠償させるか。そのやり方が争われた裁判で、最高裁は、加害者側が将来にわたって一定額を定期的に支払う方式も認められるとする判決を言い渡した。

 原告は、4歳のとき事故で重い障害を負った男性とその両親で、本来働けるはずだった18歳から67歳までの収入分を、毎月定額で受け取る方式を求めた。一方、加害者側は従来型の一括払い方式を主張していた。

 一括払いは紛争を長引かせない長所があるが、後に障害の程度や賃金水準などが変わり、被害の実態と賠償内容とが乖離(かいり)してしまう例も少なくない。

 これに対し定期払いであれば、判決の前提である事情に大きな変更があったときには、被害者側、加害者側の双方から確定判決の変更を求めることができる。98年施行の現行民事訴訟法で導入された規定だ。

 被害者の体調や医療レベルの変化に応じて必要度などが変わりうる介護費用については、定期払いが定着しつつある。だが逸失利益分に関しては、定まった考えがないまま、ほとんど一括払いが採られてきた。

 おととい最高裁は、損害の回復と公平な分担という賠償制度の目的・理念を踏まえて、定期払いに道を開いた。途中で被害者が亡くなる場合にも言及し、そうしたときでも、遺族らに対し、約束の期限まで定期払いを続けなければならないとも指摘した。被害者側に寄り添った当然の判断といえよう。

 一括払いをめぐっては、実際の取り分が目減りすることも、かねて問題になっている。将来の収入を前もって受け取るとみなされ、その間、運用によって得られる利息分を複利で差し引かれるためだ。しかも適用利率は民法が定める5%(改正法の施行で4月から3%)と、市中金利をはるかに上回る。定期払いであれば、こうした大幅な減額は避けることができる。

 もちろん良い話ばかりではない。加害者側が経済的にゆきづまり、約束の金額を払えなくなる。加害者側との関係がいつまでも続く。症状が改善して減額を求められる――など、被害者側にとって懸念材料もある。

 今回の判断は、医療過誤や労災などの賠償にも影響する可能性がある。大切なのは、被害者の意向を勘案して最善の解決策を見いだすことだ。裁判外での交渉を含め、弁護士や保険会社が果たす役割は大きい。定期払いの長短を見極めつつ、実務の見直しに取り組んでほしい。

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