(社説)河井夫妻逮捕 政権の責任は免れぬ

社説

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 8カ月前には法務行政をつかさどる法相の立場にあった衆院議員が、妻の参院議員とともに、大がかりな買収容疑で逮捕された。民主主義の土台である選挙の公正さと、政治への信頼を深く傷つける前代未聞の事態である。

 東京地検特捜部がきのう、河井克行前法相と妻の案里参院議員を公職選挙法違反容疑で逮捕した。案里議員が初当選した昨年夏の参院選をめぐり、地元の県議ら計94人に、現金約2570万円を渡した疑いがもたれている。

 昨年10月、案里議員の陣営が車上運動員に法定上限を超える報酬を支払っていたことが明るみにでて、克行議員は法相を辞任した。以来、説明責任を果たすといいながら、広がる疑惑に対し、夫妻が口をつぐんだまま今日に至ったことは厳しく批判されねばならない。

 逮捕される直前になって、そろって自民党を離党したが、これも党に迷惑をかけたくないという理由からであり、政治責任の重さを全く理解していないと言わざるをえない。

 安倍首相は通常国会閉会を受けたきのうの記者会見の冒頭、夫妻の逮捕に触れ、「大変遺憾。法相に任命したものとして責任を痛感し、国民に深くおわびする」と述べた。

 しかし、首相が問われるべきは、任命責任だけではない。今回の事件の背景に、改選数2の広島選挙区で、自民党公認の現職がいたにもかかわらず、安倍政権が2議席独占を掲げて新顔の案里議員を強引に擁立したことがあるとみられるからだ。

 公示まで4カ月を切った時期に公認された案里議員へのてこ入れのため、党本部からは落選した現職の10倍の1億5千万円もの政治資金が提供された。この潤沢な元手が、なりふりかまわぬ運動につながり、現金ばらまきの原資にもなったのではないかとの疑いは拭いきれない。

 自民党の二階俊博幹事長は、党本部で公認会計士が各支部の支出を厳格にチェックしており、「巷間(こうかん)いわれる使途には使えない」と記者団に語り、首相も会見でその発言を紹介した。しかし、単なる口頭での説明をうのみにはできない。

 選挙運動を仕切り、現金配布を主導したとされる克行議員は、首相補佐官や党総裁外交特別補佐を歴任するなど、首相に近かった。首相は自らの秘書を広島入りさせるなど、陣営の活動に深くかかわっている。

 少なくとも首相と党執行部の政治責任は免れない。党の提供資金とは無関係というのであれば、具体的な使われ方を、納得できる根拠とともに示してもらわねばならない。

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