(社説)9月入学断念 学びの正常化に全力を

社説

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 コロナ禍による長期休校を機に浮上した「9月入学」の導入見送りが決まった。一部の知事が支持し、つい3週間ほど前には安倍首相も「有力な選択肢」と踏み込んだ発言をしたが、機運がしぼむのは早かった。

 思いつきで動き、専門知に目を向けず、国民を振り回す。そんないまの政治の病が、ここでもあらわになった。

 なぜ9月入学か。口火を切ったのは高校生たちだった。授業と学園生活の空白を取り戻す良い手立てはないか。懸命に考えて提起したもので、その訴えは多くの人の胸に届いた。

 しかし実行に移すとなると、やり方によっては児童・生徒数が例年の1・4倍に膨らむ学年が出てくる。それに見合う教員や教室の確保が必要で、保育園にも数十万人の待機児童が生じる。国・自治体の財政や家計の負担は総額6、7兆円に及ぶ。研究者らが示した試算で問題の大きさがあぶり出された。

 くらしと経済の維持に巨額の財政支出が求められ、学校も感染対策に忙殺されている。社会を根底から変えるような大改革に取り組める環境ではとてもない。構想の失速と断念は当然の帰結といえよう。

 自民党は協議自体は続けるべきだと提言している。たしかに秋入学にはメリットもあり、ここで打ち切る必要はない。ただしその際は、さまざまな分野の専門家や教育・子育ての現場をよく知る人を交え、長い年月をかけて積み重ねてきた議論と知見を踏まえる必要がある。

 いま何より大切なのは、高校生たちの動きの原点である「学びの保障」の実現だ。9月入学の是非にエネルギーを割かれ、この肝心な方策の検討がおろそかになってはいないか。

 学校が再開されたといっても短時間の分散登校が続く地域は多い。一方でウイルスの感染の再拡大の恐れもあり、いつになったら本来の形を取り戻せるのか見通せない状況だ。

 自民党の提言には、学校の今年度の終わりを2週間から1カ月延長する措置の検討も盛り込まれた。朝日新聞の社説は、来年度とあわせた2年間で遅れを回復することを提案してきた。色々な行事や課外活動も子どもたちの大切な成長の糧だ。柔軟かつ無理のない発想でそうした時間を作り出す必要がある。

 もうひとつ、待ったなしの課題は入試の時期や内容に関する方針の決定である。最終学年は来年度を使った授業時間の調整はできない。また、冬場の入試の感染防止策には相当の困難が予想される。文部科学省は、受験生を送り出す中学・高校側の声をよく聞いて、適切な実施時期を見極めてもらいたい。

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