(社説)コロナと情報 利用の功罪を見極めて

社説

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 新型コロナウイルス対策の一つとして、政府は、携帯電話会社やIT企業がもつ利用者のデータを活用する準備を進めている。最新の技術をいかすことに異論はないが、やり方次第では重大な人権侵害につながりかねない。慎重な扱いと丁寧な説明によって、社会の幅広い合意をめざす必要がある。

 活用しようとしているのは、利用者の位置情報や検索・購買履歴などだ。これらを提供してもらうことで人の流れや行動を把握し、自粛要請の効果を検証したり、感染者集団の発生を抑える施策の精度の向上を図ったりしたいとしている。情報は個人名と切り離され、あくまでも統計情報として用いる。

 繁華街や主要駅にどれだけの人出があったか、位置情報を使った分析が、すでに様々な事業者によって行われている。有益なツールであるのは間違いないが、一方でプライバシー侵害のおそれもはらむ。

 新たな用途を利用者が理解することが欠かせない。政府も個人情報保護法を踏まえた対応をすると表明しているが、データのずさんな取り扱いが官民で後を絶たない。逸脱のないよう目を光らせなければならない。

 政府はさらに、感染者のスマホの記録を確認して、接触した相手に「感染の可能性がある」と伝える専用アプリの導入も検討している。モデルはシンガポール政府が開発したもので、近距離無線通信機能を使い、同じアプリを入れていて、一定時間近くにいた人物のことを識別できるシステムだ。

 アプリをインストールするときに本人の同意を得るため、法的な問題は生じないと日本政府は説明する。だが、包括的な同意があればそれでよいという話ではあるまい。データがその先どう使われるかを本人が確かめるすべはない。開発や運用の手続きの透明性を高め、コロナ禍が収束すれば速やかに利用を終え、データは消去するなどの歯止めが欠かせない。情報の漏洩(ろうえい)防止策の徹底も必要だ。

 韓国も、位置情報や購買履歴で感染者の行動経路を分析・公開し、感染拡大に効果をあげたとされるが、プライバシーが代償となった面は否めない。

 公衆衛生のためと言われると異議を唱えにくい空気がある。だが、得られる利益と損なわれる権利を比較衡量したうえで、施策を進める姿勢を忘れてはならない。感染症から社会を防衛する発想がゆき過ぎ、個人の尊重がないがしろにされる社会になれば、将来に禍根を残す。

 こうした対策も、感染の疑いがある人の検査や治療につながらなければ意味がない。医療態勢の強化は喫緊の課題だ。

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