第14回地下鉄サリン事件30年 教育者になった江川紹子さんが考えるカルト
オウム真理教を長く取材してきたジャーナリストの江川紹子さんは、かつてカルト団体に特徴的だった「善悪二元論」的な考え方が社会に広く浸透していると指摘する。20日で地下鉄サリン事件から30年。大学でカルトについて学生たちに教える「教育者」になった江川さんが考えるカルトのいまは。
――地下鉄サリン事件後、カルトを巡る状況はどう変化したでしょうか。
「30年前、カルトと言えばオウム真理教のような新興宗教団体をイメージしました。近年は、はっきりとした構成員からなる組織というより、緩やかなネットワークといった印象が強い。新型コロナウイルスのワクチン接種会場に侵入したとしてメンバーらが有罪判決を受けた神真都(やまと)Q会も一例です」
「過激派組織『イスラム国』(IS)なども、SNSを通じてメンバーを勧誘したり、勧誘せずとも考えに同調した人物が事件を起こしたりしています。そして何より気がかりなのは、個々の組織以上に、社会そのものがカルト性を帯びてきたことです」
――カルト性とは。
「例えば、善悪二元論的な物の見方です。オウムは、自分たちこそ絶対的な善で、悪の勢力が自分たちをつぶそうとしていると主張しました。同様にいま、自分たちは絶対に正しく、批判する人たちは悪だ、という考え方が広まっているように思います」
「自分たちが絶対的に正しい…
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- 【視点】
オウム真理教事件から30年を迎え、さまざまなメディアが振り返る企画をやっています。それを見て気になったのは、事件やオウム真理教の存在をどのように教訓とするかということです。よりかみ砕いて言えば、どのように現代と事件やオウム真理教を接続するか、文脈化するかということです。単に、30年前にカルト教団が恐ろしい凶行を起こした──と言っているだけでは、それを外部化して終わらせるだけとなるからです。 このときに江川さんがあの事件を振り返ったときに、無謬性をあげているのが非常に印象に残りました。ミクロに見ていくと、やはりそこに行きつくのだなと思ったしだいです。前段で反ワクチンなど近年の陰謀論もあげられていますが、たしかに根っこにあるのは個々の無謬性です。みんななにかを信じており、必ずしもそれが宗教(教団)という思想やコミュニティを形成しているとは限らないわけです。 私が近年もっとも感銘を受けたフィクションとして、マンガ家の魚豊氏の2作があります。ひとつが、中世ヨーロッパで地動説を信じるひとたちを描いた『チ。-地球の運動について-』、もうひとつが陰謀論にはまる現代日本の青年を描いた『ようこそ!FACT(東京S区第二支部)へ』。 この2作は、なにかを信じるひとたちを描いているという点で同じです。違うのは、信じる対象が地動説か陰謀論かということですが、それぞれ時代において主流の思想ではない点も同じです。 この2つは、実はコインの裏表のような作品です。なにかを信じるには根拠が必要で、さらにその根拠そのものにも精査が必要──ということの有無を両者の差異として見出すことはたしかに可能です。複数のひとびとの観察によって得られたデータをもとにした天文学と、個人の思い込みを発展させただけの陰謀論はたしかに異なるからです。 しかし多くの陰謀論者にとって根拠となるデータはそもそも不要です。なぜなら彼らの多くはそもそも科学や学問を信じていないからです。ファクトチェック等を通じて事実を的確に伝えることや、科学的知見を伝えることはもちろん大切です。しかし、それだけではどうにもならないひとがいるのも事実です。 そうしたひとびとに対する解決策をそろそろ講じたほうが良いのだと強く思います。そしてそのときの大きなポイントとなるのは、孤独や孤独感にあると個人的には考えています。
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