広がる「財務省解体」のデモ SNSに流れる言説に駆り立てられて
普段の週末なら閑散とする東京・霞が関の官庁街。段ボールの手作りプラカードを手にした数百人が「財務省はウソつきだ」と声をあげる。
2月15日午後3時。その数日前から、X(旧ツイッター)などでは、財務省の前で「財務省解体デモ」を開催する情報が流れていた。
「取材ですか」。話しかけてきたのは、埼玉県在住の男性(45)。呼びかけた一人だという。
特定の団体に所属しているわけではない。TikTokなどで切り抜き動画を配信している。以前、別のデモに参加。SNSで知り合った男性と「自分たちもやろう」と盛り上がった。
「政府が大企業を優遇し、しわ寄せが弱者に来ている。責任の一端が財務省にある」と感じている。
就職氷河期に世に出た「ロスジェネ」の世代だ。30近くの非正規の職を経験し、3年前にようやく正社員に。「結婚も諦めた。ホームレスと紙一重だった」。SNSで政治について調べ、「オススメ」で流れてきたのが、「財務省解体論」だったという。
財務省前では月に数回、こうしたデモが開かれている。いつ、どのように始まったのか。
「裏で財務省が操っていると知った」
一昨年9月から10回以上続けてきたと話すのが、池戸万作さん(41)だ。Xには、「政治経済評論家」とある。
「若者や庶民の生活苦の元凶…
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- 【視点】
財務省の政治権力は戦後、ずっと下がってきました。早くは山口二郎先生の名著『大蔵官僚支配の終焉』に書かれている1960年代半ばの赤字国債の発行ですが、1990年代以降の改革で官邸主導になったことが大きい。債務残高は今年度末で1105兆円が見込まれ、GDP比で2倍以上と、先進国で最悪水準。財務省が強ければ、こうはなりません。経済の停滞の原因を財務省の緊縮政策に求めるのは、論理的ではありません。記事に書かれているように、デモを行なっている人々の生活苦などの背景を理解するのは必要だとしても、財務官僚が税金をポケットに入れているなどという、とんでもない主張には毅然と対峙していかないと、国が壊れ、ひいては国外に逃げられない普通の国民が困ります。まあ、こんなことを書くと、いつものように、財務省の犬とか、緊縮脳とかネット上に散々、書かれるんでしょうけど。。。
…続きを読む - 【視点】
最近、世界的にこうしたデモ―つまり、既存の権力に抵抗しつつも、右派の排他主義を一部受け入れた集団行動が広がっている。政治的に激動期を迎えている韓国でも、右派勢力が拡大するヨーロッパでも、人々はSNSを中心にネット上で結集し、既存の権力やレガシーメディアへの不信の声をあげている。こうした動きの背景に、社会格差の拡大、経済的不安定、生活苦に直面する人々の増加といった現実的な要因があるのは間違いない。しかし、それだけではなく、政治やメディアの権力構造そのものが変化しているという、より根本的な視点からも考える必要もあると考える。 日本では相対的に新聞やテレビへの信頼が高いが、世界的にはレガシーメディアの信頼性が著しく低下しており、その代わりに、SNSやYouTubeなどの新しいプラットフォームへの信頼が高まっている。これらのプラットフォームは、多様な声を届け、より自由な主張を可能にするという長所を持ち、一概に否定すべきものではない。しかし、その特性を利用して無責任に大衆の感情を煽る政治家が支持を得やすくなっているのも事実である。こうした動きを単に生活苦に追われた人々の感情的な主張として片付けるのではなく、それを支える社会構造や情報環境の変化についても考える必要があるのではないか。
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