トランプ氏「健在」の意味は ヤン=ヴェルナー・ミュラー氏に聞く

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聞き手 アメリカ総局長・望月洋嗣

 11月5日に迫る米大統領選で、前回選挙での敗北を受け入れず、刑事裁判で罪にも問われる共和党のトランプ前大統領が、民主党のハリス副大統領と激しく競っている。トランプ氏の健在ぶりは何を示唆するのか。ポピュリズム政治に詳しい米プリンストン大学のヤン=ヴェルナー・ミュラー教授に尋ねた。

 ――トランプ氏への支持がいまなお高いことを、多くの日本人が不思議に感じています。

 「多くの米国人も同様に困惑していますが、二つの点を強調したい。まず、トランプ氏は共和党を『個人崇拝の政党』のように変容させました。多くの親族が党運営に関わっていて、家族経営の政党ともいえる。その結果、共和党は人材を失い、ある意味で空洞化しました。民主党の組織構造が完璧だとは思わないが、共和党の場合は極端です」

 「これは、他国の右派ポピュリスト政党にもよくみられるパターンです。インドのモディ首相、トルコのエルドアン大統領、ハンガリーのオルバン首相が、いずれも政治学でいう『個人政党』をいわば専制的な手法で率いているのは、偶然ではありません。党内に異論や対抗勢力が存在しない点も共通しています」

なびいたエリートたち

 「2点目は、米国の保守派のエリート政治家らの一部がトランプ氏を許容すると決断したことです。トランプ氏が初めて大統領選に出た2016年には、彼に反発する人が党内にも大勢いました。トランプ氏に追い落とされた人がいた一方、一部はトランプ氏の影響力を目の当たりにし、時とともにトランプ氏になびいたのです」

 「一部の経済エリートにも同じことが言えます。シリコンバレーのIT産業の成功者などです」

 ――起業家のイーロン・マスク氏や米決済大手ペイパル共同創業者で投資家のピーター・ティール氏らでしょうか。

 「その通り。彼ら以外にも大勢います。単刀直入に言えば、こうした経済エリートは、バイデン政権による規制強化を嫌う一方、トランプ氏は富裕層への減税や、IT産業への規制緩和を約束するとみています。トランプ氏が1期目(17~21年)にエリートが求めることをした、と捉えているのです」

 「庶民に人気のある右派ポピュリストの政治家を、自分たちに有利だと考えたエリート層が支える、という構図は米国に限ったことではありません」

 ――トランプ氏は大統領選を過去2回戦い、訴えに新味は感じられませんが、なぜ支持が衰えないのでしょうか。

 「トランプ氏には細かな政策…

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この記事を書いた人
望月洋嗣
アメリカ総局長
専門・関心分野
国際政治、紛争
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