宇都宮LRT開業1周年 予想超える利用者数

山下龍一 津布楽洋一 石原剛文
[PR]

 宇都宮市栃木県芳賀町を結ぶ次世代型路面電車(LRT)の開業1周年にあわせ、宇都宮市内で25日、記念イベントがあった。利用者数は400万人以上と予測を上回り、国内外からの視察は300件超と引き続き高い注目を集めている。

 イベントは宇都宮市と芳賀町、宇都宮ライトレールでつくる実行委員会が主催し、JR宇都宮駅東口のライトキューブ宇都宮周辺で開かれた。

 午前10時からの式典で宇都宮市の佐藤栄一市長は「来月には利用者が500万人になる見込みだ。これで終わりでなく、JR宇都宮駅西口へ(LRTを)延伸しないといけない。公共交通を充実させ、環境に優しいまちをつくりたい」とあいさつした。

 鉄道愛好家らでつくる「鉄道友の会」が選ぶ優秀賞「2024年ローレル賞」に、LRTの車両「宇都宮ライトレールHU300形」が選出されており、その授賞式もあった。鉄道友の会の佐伯洋会長は「車両が優秀である以上に、宇都宮のLRTは大きな社会的なインパクトがあった。会員の心を打った」と述べた。

 1年前の開業日(8月26日)にLRTの一番車両が宇都宮駅東口を出たのが、午前11時40分だった。同じ時刻に合わせ、地元小学生らが「出発進行」の号令をかけ、貸し切り車両が出発した。

 ほかにも、宇都宮市出身でサッカー女子元日本代表の鮫島彩さんのトークショーなどがあった。

 宇都宮市下平出町のライトライン車両基地はこの日、一般に開放された。普段は立ち入れない場所から車両を見学したり写真を撮ったりすることができ、午前中から大勢の人が訪れた。

 基地内の引き込み線では、子どもたちを対象にしたLRTとの徒競走を実施し、かけっこに自信がある小学生らがLRTとの50メートル競走を楽しんだ。重さ約40トンの車両を相手にした綱引きもあった。

 このほか、車両のペダルを踏んで警笛を鳴らしたり、車内アナウンスをしたりすることができる体験コーナーや1周年記念の限定グッズの販売などもあった。

 宇都宮市の中学2年生、今井健智(たけのり)さん(13)は「(JR宇都宮駅の西側方向には)大谷資料館などの観光地もあるので延伸してほしいと思います」と話していた。

     ◇

 LRTの開業1年目の利用者数は予想を超える好調ぶりだった。7月には予測より約2.5カ月早く400万人に到達、同月の利用者43万9847人は月間利用者の最多を更新した。同月の1日あたりの利用者は平日約1万5千~約1万8千人、土日祝日約1万~約1万1千人で、いずれも事前の予測を上回った。

 脱車社会をめざすLRTは、渋滞対策への効果も見え始めている。栃木県によると、宇都宮市内の渋滞地点の自動車交通量を開業後(2023年)とコロナ禍前(2015年)で比較したところ、6050台(19%)減少していた。同市や芳賀町による平日の利用者調査をもとにした試算では、車からLRTへの乗り換えは、平日1日あたり約3800台分。宇都宮市が昨年沿線の一部で実施したアンケートでは、「公共交通とマイカーを使い分けている」と回答した人が、開業前の7月時点(165人)に比べ、開業後の11~12月時点(279人)では増えていた。

 地域密着も進んだ。利用者調査では、利用者の6割強が市内・町内在住者で、乗車目的は通勤・通学が6割近くを占めた。

 停留場の利用者数をみると、鉄道との接続地点や商業施設周辺が飛び抜けている。運行会社宇都宮ライトレールの2月下旬の1週間の調査では、平日、土日祝日ともに最も多かったのがJRと接続する宇都宮駅東口だった。土日祝日ではショッピングモールがある宇都宮大学陽東キャンパスが続いた。

 利用が好調なことについて、交通政策に詳しい宇都宮浄人・関西大学教授(交通経済学)は、LRTの定時性や本数の多さから来る信頼性が、ライフスタイルの転換につながっていると指摘する。「LRTのイメージが湧かない開業前の状況が、バリアフリーで乗りやすいなど開業後の好感に変わり、通勤・通学だけでなく日常の外出手段になっている。今でも車を使う人は多いと思うが、車社会で10人に1人でもLRTに乗り換えれば大きな転換が起きるので、それが利用者の多さにつながっている」と話している。

有料会員になると会員限定の有料記事もお読みいただけます。

【春トクキャンペーン】有料記事読み放題!スタンダードコースが今なら2カ月間月額100円!詳しくはこちら

この記事を書いた人
山下龍一
世論調査部
専門・関心分野
国政、地方自治、トライアスロン
石原剛文
宇都宮総局
専門・関心分野
教育、コミュニケーション