多様性に違和感の作品、なぜ続出 開き直りと健全な批判を分けるもの

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聞き手・加藤勇介

 「多様性の尊重」。近年しきりに強調される価値観だが、それに対し疑問や違和感を示した物語を目にすることが最近多い。

『正欲』

 直木賞作家・朝井リョウの小説。「自分が想像できる〝多様性〟だけ礼賛して、秩序整えた気になって、そりゃ気持ちいいよな――」と挑発的なキャッチコピーを掲げ、異性愛でも同性愛でもない特殊な性的指向を持つ人物らが登場。昨年には稲垣吾郎、新垣結衣ら出演で映画化もされた。

『不適切にもほどがある!』

 宮藤官九郎脚本のドラマ。意識が低い昭和のダメおやじの不適切発言が、コンプライアンスや多様性を尊重する令和社会の人に気づきを与えると風刺的に描き、今年もっとも話題となったドラマの一つだ。

『%(パーセント)』

 5~6月に放送されたNHKドラマ。テレビ局内のジェンダーバランスを考慮して若手女性をプロデューサーに抜擢(ばってき)し、「多様性月間」のキャンペーンのために障害のある俳優を起用するという、自己言及的なドラマ内ドラマを描いた。

 このような作品が相次ぐのはなぜか。『多様性との対話 ダイバーシティ推進が見えなくするもの』の編著者で、文化研究者の岩渕功一・シドニー工科大学名誉客員教授に聞いた。

経済界が旗振り役だった「多様性」

 ――こうした作品はなぜ増えたと思いますか。

 多様性、あるいはダイバーシティーという言葉がよく使われるようになったのは2000年代以降で、比較的最近のことです。先進国で少子高齢化が進む中で、労働力確保と共に多様な人材が職場にいることでイノベーションや新たな価値が創造されるとして、国籍や性別などの壁をなくして働きやすさを整える重要性が指摘されるようになったからです。日本でも、当時の日経連が「ダイバーシティ・ワーク・ルール研究会」を発足させ、02年には報告書を出しました。

 企業や組織が多様性を尊重し奨励する風潮はより強まっており、有無を言わせない良きこととして広く使われている感もあります。そうしたことへの漠然とした違和感や、お題目に過ぎないという不審、そもそも多様性は何を意味するのか、どうしたらいいのかという根本的な疑問を持つ人が多くなっていることを反映しているのかもしれません。

 ――多様性への違和感は上記の作品に共通していました。

 挙がった作品はテーマや論点が異なりますが、いずれも多様性の尊重というスローガンが表層的であることを批判的に見ていました。そうした違和感が小説やドラマで表現されることで、なんとなく良いこととして了解されてきた多様性の議論について、私たち一人ひとりが自分でしっかり考えることを促すきっかけになるのなら、それはとても重要だし健全な批判だと思います。

 ただ、根本的な問題が置き去りにされたまま、多様性という言葉やスローガンへの反発が高まって、ただ否定することにつながるといった悪循環になってしまわないか注意して見ていくべきだと思います。

「違いを理解しよう」の薄っぺらさと暴力性

 ――どういうことでしょうか。

 いうまでもなく、私たちの社…

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    武田緑
    (学校DE&Iコンサルタント)
    2024年7月29日12時51分 投稿
    【視点】

    これらのドラマや映画は見ていないのですが、話題になっているのをSNSなどで眺めて気になっていました。この記事のように1つ1つ整理してくれるのは非常に参考になります。 多様性という言葉は、なんとなくポジティブで曖昧で、でも正義を纏っていて・

    …続きを読む