近代文学の埋もれた短編を、自分だけのアンソロジーに――。田畑書店社主の大槻慎二さんによる「ポケットアンソロジー」はそんな企画だった。予想外に購入者は20~30代の女性ばかり。ゲーム「文豪とアルケミスト」にはまった女性たちが、近代文学の世界へ「逆流」しているのだった。
リレーおぴにおん 「集まれば」
短編を集めた作品集を、アンソロジーといいます。例えば、高名な作家が選んで、「○○編」として1冊の本にします。「誰が編んだ」「どう並べるか」などで、アンソロジーはさまざまな表情を見せます。本好きだったら、例えば「夜の街」とか「破綻(はたん)する愛」といったテーマを決め、自分で自由にアンソロジーを編んでみたいと思った経験があるでしょう。誰もが自分だけで編みたいのでは、と企画したのが「ポケットアンソロジー」でした。
短編小説を印刷した文庫本サイズの「作品リフィル」(330円)と、それらを綴(と)じる「ブックジャケット」(1980円)を販売。リフィルは、手帳の詰め替えと同じで、付属の軸棒で、その中から最大約200ページ、8作品ほどのリフィルをまとめ、自分だけのアンソロジーをつくれます。
太宰治、坂口安吾ら文豪から、加能作次郎、菅忠雄など知る人ぞ知る作家まで。詩やエッセーも含み、著作権が切れた短編を中心に、現役の作家の新作も。若手の文学研究者にどの作品を選ぶかは相談しています。
取次会社を通す書籍ではなく、すべて書店との直取引商品です。交渉し、2021年春には全国30の書店に置かせてもらうことができました。
その直後、紀伊国屋書店の新宿本店の売り場の写真を誰かがツイート。瞬く間に4万超えの「いいね」がつき、話題にもなってメディアからの取材も受けました。購入者はほとんどが20~40代の女性で、かつて文学を読みこんだ60、70代を想定してつくった商品だけに驚きました。彼女たちは、ゲーム「文豪とアルケミスト」の熱烈なファン層とかなり重なっていたのです。
「文アル」は、文学を破壊し…