第1回「後悔もあるんじゃないか」 オッペンハイマーの国、被爆者は信じた

有料記事Do you know Nagasaki?

寺島笑花
【A Scene】被爆者の話を聞いたアメリカの子どもたちの反応は…。2週間の旅に密着したドキュメンタリーの前編です。

A Scene × Premium A × A stories 「Do you know Nagasaki?」

 「長崎を知っていますか」

 日曜日の昼下がり。米イリノイ州・シカゴ中心部の公園で、長崎から出張していた記者(27)は散歩する70代夫婦に声をかけた。

 「広島に続いて、長崎にも原爆が投下されたことは知っている」。夫(75)は答えた。「原爆投下によって多くの人が命を落としたことは残念なことです」

 一方でこう続けた。

 「原爆は戦争を早く終わらせ、何百万人もの米国人の命を救った」

 隣で妻は、いぶかしげな表情を浮かべていた。「それは、政治家がそう信じさせたいだけでしょう」「核兵器には反対です。人を殺す全ての武器にも」

 2023年夏、米国である映画が公開された。「原爆の父」と呼ばれる物理学者、ロバート・オッペンハイマーを取り上げた「オッペンハイマー」(クリストファー・ノーラン監督)だ。

 原爆の開発の過程や、苦悩する様子など、心情を丹念に描いて好評を博し、米アカデミー賞で作品賞など7部門で受賞した。日本でも24年3月29日に公開される予定だ。

 だがこの作品には、キノコ雲の下で何が起きたのか、つまり被爆者の描写はほとんどない。日米の原爆投下に対する意識の差を指摘する声も上がり、日本で波紋を呼んだ。

 実際、米国の一般市民は原爆投下や核兵器についてどんな考えを持っているのか。キノコ雲の下に多くの人の命があり、未来が一瞬にして奪われたこと、そして今なお苦しんでいる人がいることを知っているのか。現地で直接聞き、知りたかった。

 2023年11月、長崎の被爆者が被爆体験を米国市民に伝え、対話しながら米国を巡ったキャラバンツアーに同行した。

 「アメリカの人たちみんなが…

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    マライ・メントライン
    (よろず物書き業・翻訳家)
    2024年3月27日7時30分 投稿
    【視点】

    映画『オッペンハイマー』について「被爆者の描写はほとんどない」というのはよく言われることだが、逆に「直接描写の代わりのオッペンハイマー自身の【幻視】シーンがその欠落をよく補っている」という日本側の意見もあり、このあたりは延々と平行線状態にな

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    佐倉統
    (東京大学大学院教授=科学技術社会論)
    2024年3月27日13時23分 投稿
    【視点】

    『オッペンハイマー』に被曝者の描写がほとんどないという批判を聞くにつれ、違和感を禁じ得ない。そんな「好意」が「あちら」側にあるはずないと思うのだ。当事者の体験や声は、何物にも代え難い重みをもつ。しかしそれは一方で、主観性が極度に強いため、当

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