同世代とつながり動き決意したこと 「地球沸騰」未来を変えるために

Re:Ron発

日本若者協議会メンバー・芹ケ野瑠奈=寄稿
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シリーズ「Re:Ron×NEXT」 日本若者協議会メンバー・芹ケ野瑠奈さん(寄稿)

 10月25日の夕方、国内最大の火力発電会社であるJERAの本社前に恐竜2頭とプラカードを持った人々が現れた。正体は、JERAの新規の化石燃料事業からの撤退を求めてスタンディングアクションを行う若者たちだ。

 この「#No More Jurassic JERA」アクションは、豪州の環境NGO「マーケット・フォース」の主催。大学3年生の筆者はスタッフとして企画と実行に関わった。私はなぜ、気候変動に関する社会運動を行っているのか。これまで何を行ってきたのか――。

 気候変動にかかわる活動を始めたのは高校2年生の時。今年で5年目になる。世界で広まりつつあった「Fridays For Future」(FFF)の運動をSNSなどで知り、日本で行われたFFFのマーチに参加したのがきっかけだ。

 アメリカ人であり、ヨガの指導者でもある母から「生きていく中では社会に貢献をしなければいけない」と言われて育った。高校のボランティア部で動物シェルターの手伝いをしたり、外国にルーツのある子どもの学習支援をしたりしていたこと、親に連れられてデモに参加した経験もあり、とりあえず1回という気持ちだったが、気候変動に関する活動をすでに行っている高校の後輩から熱い誘いを受け、国際環境NGO「350.org」や「FFF Tokyo」のイベントに参加するようになった。

 正直に言うと、当初はそこまで気候変動に興味はなかった。しかし、同じ世代の若者たちと学びを深めるうちに、気候変動がいかに深刻かつ緊急性が高い課題か、自分事としてとらえるようになっていった。社会課題に関心を持つ友人も増え、イベントやアクションに頻繁に、そして深くかかわるようになった。

「エコ活」だけでは足りない

 私は母の影響を受け、プラスチックの量を減らしたり、肉を食べない生活をしたりといった「エコ活」をしていた。しかし、制度の変革を目指す350.orgやFFFにかかわることで、マイバッグやエアコンの28度設定などの個人的なエコ活だけでは、気候危機の根本解決はできないと知った。

 ただ、制度を変えるのは大変だ。政府の政策や大企業の事業方針を、私たち個人の力で変えることなんてできるのか、半信半疑だった。そうではないと思うようになったのは、マーケット・フォースで活動するようになってからだ。

 豪州に本拠地を置くマーケット・フォースはグローバルに活動している。この5年ほど、アジア各地で化石燃料関連事業に多額の投資をする日本企業に対し、人権侵害と環境破壊に加担しないよう、株主提案や対談を通じて働きかけている。

 大学入学後、気候変動の運動にかかわる友人からマーケット・フォースの求人の知らせが送られてきた。興味を引かれて応募。オンライン面接を受けて採用された。今は大学の休み期間中にキャンペーン・アシスタントとしてアルバイトをしている。

 最初に担当したのは、バングラデシュ石炭火力発電所の建設にかかわる日本の大手商事会社に、事業からの撤退を求めるアクションだった。マーケット・フォースが新聞に載せたPR広告を本社前で配布したり、会社の看板の前で広告を手に写真を撮ったりした。

 財政力の弱い日本のNGOに慣れていたので、新聞に全面広告を出せるマーケット・フォースの資金力には驚いた。当時はコロナ感染で日本人スタッフが私しかおらず、日本にいる他のNGOスタッフともアクションを行った。

 結局、その大手商社は石炭火力発電所の拡張事業を断念した。マーケット・フォースの影響力がどれだけあったかは分からない。ただ私にとっては、個人が集まれば大きな変化を促すことができると信じることができた経験だった。

政府や企業を変えるには

 気候変動問題に携わる人たちは皆、目指す方向はおおむね同じ。しかし、方法には様々なスタイルがある。私のアプローチは、政策を通して制度を変えることだ。背景にあるのは、政治は自分たちでつくっていくものという思いだ。もちろん、すべてを変えられるわけではないが、変えていける部分は絶対にある。

 2020年からは、一般社団法人日本若者協議会での活動も始めた。若者の声を政治の場に届けるアドボカシー団体で、主に政党や政府機関への政策提言と意見交換を行っている。投票以外で政治にアクションを起こしたいと思っていた私は、すぐに入会を決めた。

 気候変動には、今の世代が出す温室効果ガスのツケが、将来の世代に回るという「世代間の不公平」が存在する。だが、不利益を被る将来世代は、政治の場で影響力を持ちにくい。若者の投票率は低い。政党には年功序列が厳然とある。審議会に若者はおらず、決定権を持たない。気候変動に危機感を抱く若者の声を政治に届けるには、とにかく接点を持たなければならない。同協議会で環境政策委員になった私は、地方議員の人たちとのネットワークを広げたり、地域の商業施設の脱炭素化に取り組んだり、エネルギーの地産地消に挑んだり、身近なところから政治に関わるよう努めている。

 とはいえ、周りを見ると、社会運動や政治に関わろうとする若者は必ずしも多くない。私や周りの活動家たちの関心は高いが、他の若者はそこまでではなく、関心があっても行動までには至らない人が多いことが、内閣府世論調査などでも分かっている。目の前の生活に頭がいっぱいで、気候変動まで目を向けられないのだろう。

 それも分かる。しかし、気候変動は待ってくれない。まずは、関心を持つ私たちが先頭に立って賛同者を巻き込み、運動を広げなければ、政府や企業を変えることはできない。冒頭でふれたJERA前のアクションはその一環だ。

時代遅れな化石燃料にさよなら

 JERAは東京電力中部電力が出資する国内最大の火力発電事業者だ。二酸化炭素(CO2)の排出量を抑える取り組みのひとつに、発電時にCO2を排出しないと言われる「ゼロエミッション火力」の技術開発がある。

 ゼロエミッション火力では、化石燃料の代わりにアンモニアと水素を燃やす。成功すれば日本や世界の脱炭素に大きく貢献するとJERAは広告するが、これには、アンモニアと石炭を一緒に燃やす混焼なので、CO2排出量は大きく減らないという批判がある。

 たとえば、日本の環境NGO「気候ネットワーク」と弁護士らでつくる日本環境法律家連盟(JELF)は、脱炭素の効果が不十分なのに、「CO2が出ない火をつくる」と広告するのは、消費者を誤解させる「グリーンウォッシュ」だとして10月、日本広告審査機構(JARO)にJERAの広告の中止を勧告するよう申し立てた。こうした背景からJERA前で抗議行動が企画され、主に若者が集まったのだ。

 アピールには工夫を凝らした。大きなバナーには「時代遅れな化石燃料事業にさよなら! No More Jurassic JERA」という文字と恐竜の骨格のイラストを描いた。JERAにジュラ紀並みに時代遅れの化石燃料事業から撤退し、再生可能エネルギー事業に移行してもらいたいという思いを込めた。JERAが化石燃料事業を行っているバングラデシュ、フィリピンインドネシアの仲間とも連携し、共通のバナーとメッセージで同じ週にアクションを実施した。私たち若者たちの思いははたしてJERAに伝わっただろうか?

 2023年3月に発表されたIPCC(国連気候変動に関する政府間パネル)第6次評価報告書では、世界の平均気温は産業革命前から1.1度上昇し、2030年代には1.5度に達する可能性が高いと指摘されている。今年も世界中で猛暑などの異常気象が発生、このままいくと私たちの未来はどうなるか、不安でならない。

人類の英知を傾けて

 「地球が沸騰している」と言われる今、地球を守るために、何をするべきか? 化石燃料を利用した火力発電からフェーズアウトし、太陽光や風力発電などの再生可能エネルギーをさらに導入していかなければいけないと考える私には、大企業も政府も目先の利益しか見ていないのではないかと思えてしまう。

 かつて栄華を誇った恐竜は、急激な気候の変動によって絶滅したという説が有力だ。この気候変動は恐竜が招いたものではないだろうが、今の気候変動は人工的な要因が引き起こしたものだ。であれば、絶滅を逃れるために人類は持てる英知を傾けなければならない。

 その一人として、未来を守る行動を続けていきたい。

 関心がある人ばかりではなく、関心はあるけど行動できない人、関心のない人ともつながって、より長期的な目線で将来世代の利益も考慮した行動を政府や企業がとるように促すよう、力を尽くしたいと考えている。(日本若者協議会メンバー・芹ケ野瑠奈=寄稿)

厄介な問題だらけの日本や世界を変えるための一石。「Re:Ron×NEXT」は若い世代のそんな声を届けるシリーズです。

せりがの・るな 2002年生まれ。早稲田大学政治経済学部3年生。高校在学中から複数のグループで気候変動に関する活動を始める。日本若者協議会に所属。ジェンダー平等と気候変動についての政策提言などのアドボカシー活動を行う。

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