第2回「学生に迷惑かけない仕組みを」、人件費減り教員人事一元化 広島大

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聞き手・桜井林太郎

 研究力低下が問題となっている日本。とりわけ、研究資金の「選択と集中」政策で、下支えしてきた地方大学の疲弊が指摘されている。研究力強化には何が必要なのか。「世界のトップ100大学をめざす」という野心的な目標を掲げる広島大の越智光夫学長(71)に聞いた。

 ――どんな大学を目指しているのですか?

 広島大は、世界に目を向けると同時に、地域に根ざし、地域と一緒に発展していくという視点も持っています。地域の活性化には大学の役割が大きい。大学は各都道府県にあり、シンクタンク機能を担えます。地方大学は地域発展のかぎを握っているからこそ、地域も大事にしてくれます。アカデミアだけに閉じていると支援は得られません。本学は、原爆により前身校であるさまざまな学校が壊滅的な打撃を受けました。その後1949年に新制広島大が設置されましたが、国のお金だけでは十分ではないと、設置費用の多くは県のお金や県民の寄付でまかなわれ、地域に支えていただきました。国立大学ですが、地域の大学でもあるのです。

 ――地域の大学が、なぜ世界のトップ100大学(英教育誌タイムズ・ハイヤー・エデュケーションの最新の世界大学ランキングでは、100位以内の日本勢は東京大と京都大のみ)を目指しているのですか?

 地方に根付いているだけではなく地域のアカデミアの代表として、研究者が世界とつながるパイプやネットワークを持っておくことが、地域の活性化の拠点としても必要です。イノベーションが生まれれば、それによって世界的な研究者がやってきて、学生も興味を持ち、その領域に進む人が出てくる。行政や産業界も巻き込み、さらに人が集まる国際的な拠点になります。国際的な人材を育成するのは、(東大や京大などの)旧帝大ばかりではありません。地方の総合大学にも、世界的な研究拠点が必要です。トップ100という高い目標を持ち、こんなことをしましょうとか、あんなことやったらいけるのではと、仕掛けをつくっていくのが私の役割です。逆に言うと、トップ100を目指すぐらいの気持ちがないと、どんどん大学が縮まっていくのではと心配しています。

 ――半導体エコシステムの形成など、大学が重点的に取り組む事項を、7月に「5イニシアチブ」として公表しました。狙いは?

 5イニシアチブは広島大がおかれている現状で、近々の研究をどうしていくかを示しました。広島大は総合研究大学ですが、すべての研究領域を強化するというわけにはいきません。限られたお金とマンパワーで、強い分野をさらに強くしていこうと考えています。いつも全体最適の視点を持つ必要性を自覚しています。

 ――その中心が半導体だと。

 広島大では、古くから半導体の研究・教育を始めており、優れたリーダーのもと、「西の広島大、東の東北大」と言われたくらい、強い領域です。東広島キャンパスの近くには、かつてNECが製造拠点をつくり、エルピーダメモリから今は米マイクロンテクノロジーの工場となっていますが、そのマイクロン社は5千億円の投資を今後予定しており、経済産業省はそのマイクロン社へ1920億円の支援を決定しています。この分野で優れた研究者がこの地に増え、学生が国内外から集まり、教育を受けた学生が就職して世界に羽ばたいていけば、広島大にとって一つの象徴的な意味になると考えています。

一本足打法ではダメ

 ――他の分野はいかがですか?

 もちろん、(半導体だけの)一本足打法ではダメです。情報科学、WPI(文部科学省の世界トップレベル研究拠点プログラム)のキラルノット超物質、食糧、ゲノム編集、海洋・海事などにも力を入れます。被爆地・広島として、平和科学の根幹をなす放射線災害の管理も重要です。

 一方で、さほど強くないとしても必須な研究分野もあります。必要な人材をどこにどう投入するか、学長として考えないといけません。独断ではなく、どういう研究分野が必要かを、現場の先生方の意見を聞きながら、最終的には役員会などに諮り決めます。

 ――そのためにどうしたのですか。

 研究力強化に向けて一番取り組んだのは、実は教員人事の全学一元化です。すべての教員は学術院に所属し、そこから各学部の授業にあたります。例えば、理学部にも、教育学部にも、総合科学部にも、物理を担当している先生がおられます。従来はある学部の教員が辞めると、同じ学部で対応していましたが、全学的視点で俯瞰(ふかん)し、他の学部に同じような分野の教員がいるなら、その学部での後任人事は不要でしょう。国立大学の総合研究大学で、完全な意味で教員人事の全学一元化を実現したのはほかにないと思います。

 ――なぜ、そうする必要があったのですか?

 この20年間、国立大学の運営費交付金はずっと減り続けました。教員の数は交付金で決まってくるため、人件費を削減せざるを得ませんでした。人件費が減り教員が減っても、本学の使命は変わらず、学生を減らすわけにはいきません。学生に迷惑をかけないような仕組みを構築する必要がありました。

厳しい運営を強いられている地方大学。世界最高水準をめざす大学を支援する国際卓越研究大学制度など、加速する「選択と集中」に何を思うのか。各地を訪ね、地方大トップらに本音や生き残りをかけた戦略を聞く。

 そこで教員人事を全学一元化…

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この記事を書いた人
桜井林太郎
くらし科学医療部
専門・関心分野
環境・エネルギー、先端技術、医療、科学技術政策
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    倉田徹
    (立教大学法学部教授)
    2023年12月6日13時0分 投稿
    【視点】

    記事全体を通して、文科系の研究領域や教育についての言及がないのが気になります。特に、地域と一緒に発展して行く大学という角度からは、会社員や公務員、教員などの多くの職業を目指す学生を教育する必要があり、文科系の役割も大きいと思います。少数の大

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