新千円札の「顔」北里柴三郎のホール完成 福沢諭吉との意外な関係も

城戸康秀

 「近代日本医学の父」と呼ばれる北里柴三郎の生まれ故郷・熊本県小国町が、「柴三郎の小国」のアピールに力を入れている。柴三郎を肖像に採用した新千円札の発行が来年7月に迫る中、柴三郎の記念館にシアターホールが完成。観光客や修学旅行の呼び込みを図る。

 9月に完成したホールは、柱や壁など内外装に小国杉をふんだんに使い、町のシンボル涌蓋山(わいたさん)を表現した大屋根が目をひく。柴三郎の生涯を動画で紹介する上映室や多目的ホール(40席)を備え、展示には非接触のデジタル技術を採用。来館者はタブレット端末を使いながらAR(拡張現実)で柴三郎の歩みやエピソードに触れられる。動画やデジタル素材は英独中韓の4カ国語に対応している。総事業費は計約4億3千万円。

 ホールは、柴三郎の愛称にちなんで「ドンネル館」に。ドンネルはドイツ語の「雷」。柴三郎は筋が通らない話に激しく怒る一方で、弟子たちからの人望は厚く、親しみを込めて「ドンネル先生」と呼ばれたという。

 柴三郎は小国の庄屋の家に生まれ、16歳で藩校へ。医学の道に進み、血清療法という破傷風の治療法確立など大きな功績を残した。町は、柴三郎が郷里に建てた図書館「北里文庫」や、帰省時に来客をもてなした「貴賓館」、生家の一部を記念館として公開してきた。2019年4月に柴三郎が新千円札の顔になると発表され、記念館の拡充にとりかかった。

 柴三郎のひ孫で北里大名誉教授の北里英郎(ひでろう)・館長(66)は「ノスタルジックな建物と最新の技術が融合した施設になった。幅広い世代に柴三郎の人となりを伝えたい」と話す。

 また、「新ホールが完成した今がスタート地点。より多くの人に来てもらうことが最も大事」とも。県内各地の学校で講演するほか、様々な企画を進め、「柴三郎の小国」の旗振り役として奔走している。

 その一つが、ホールのこけらおとしとして開いた講談会。1万円札の顔である福沢諭吉と柴三郎の交流が軽快に語られた。柴三郎はドイツ留学から帰国後に諭吉の支援で伝染病研究所を設立。諭吉の死後には慶応義塾大学部医学科の初代医学科長に迎えられている。その際、「予は福沢先生の門下生ではないが、先生の恩顧をこうむったことは門下生以上である」と語ったという。

 その物語を講談師の若林鶴雲さん(74)が17年に創作。小国だけでなく諭吉の故郷・大分県中津市でも披露した。「2人の関係は意外に知られていない。故郷での講談会は非常にやりがいがあった」という。

 英郎さんは「関係先との連携を広げ、記念館の発信力も強めて、観光客や修学旅行生の増加につなげたい」と話している…

有料会員になると会員限定の有料記事もお読みいただけます。

【春トクキャンペーン】有料記事読み放題!スタンダードコースが今なら2カ月間月額100円!詳しくはこちら

この記事を書いた人
城戸康秀
阿蘇支局長
専門・関心分野
地方自治と地方政治のあり方、災害と地域振興