「自己責任です」から離れよう 勅使川原真衣が薦める責任の果たし方

有料記事

組織開発コンサルタント・勅使川原真衣=寄稿

Re:Ron連載「よりよい社会」と言うならば(第5回)

 今回は「自己責任」について考えてみたい。批判を起点にしない意味で、これまでとはちょっと毛色を変えようと目論(もくろ)む。

 というのも、「自己責任」は、これまで取り上げてきた「能力主義」「自立」「成長」ということばと違い、礼賛一辺倒ではない。それどころか「自己責任」を盾に公助を削減・放棄して、個人に圧をかける自己責任論というのは、少なからず批判にさらされてきた。しかし興味深いことに、いまだ正論の香りを漂わせ、一定の市民権を得ていることも事実だ。

 それはつまり、私たちが今こそ問うべきは、“自己責任論の何が問題か?”ではない。そうではなく、“これほど問題もある自己責任論がいまだ消え失せないのは、いかなる理由からか?”と、問いをずらしてみたい。「自己責任」/「責任」ということば自体の解きほぐしが、手薄なのではないか?と考えている。

 職場でも「自己責任」ということばや、誰を育てるべきか?/活躍しない誰は実力不足として切り捨てるか、といった「選抜」論はおなじみだ。

「休職は自爆だった」 メーカー社員のMさん

 とあるメーカーの社員(Mさん)は、理系大学院修了後、新卒で某メーカー研究開発部門に入社し、6年間奮闘してきた。しかし本人いわく「ある日突然、頭の中がぐちゃぐちゃになった」という。ほどなくして休職、精神科でうつ病と診断された。半年間の休職を経て、別の開発部署に復職。復職後の対応を上司が心配して、私との面談がセッティングされた流れだ。プライバシーに配慮して一部創作してある。

 勅使川原:復職、ドキドキしますね。

 Mさん:しますねぇ。でも皆さんに気を使わせていて申し訳ないです。休職は自爆だったのに。

 勅使川原:自爆?

 Mさん:認めてほしかったんですよね。誰よりも仕事をしてる、できてるって。でも思うように褒められないから、あれ? もっとやんないとダメなのかな? じゃあもっともっと……なんてしてたら、あっという間にさばききれない仕事の山に。逃げるように休職に入ることになってしまいました。情けないです。

 勅使川原:いやいや、ご自分とよく向き合っていらっしゃるんですね。

 Mさん:そんな。仕事なんだから「自己責任」です。私がもっとちゃんと自己管理できていたらこんなことには。私の問題です。

 出た。この、「責任はひとえに私にあります」と言ったときのすがすがしさ。しかしこの一見した潔さの半面、責任の所在や「本当に悪いのは誰か?」のような犯人捜しに拘泥している点で、そこから打開策は編み出されにくい。これを言い切っている限り、意外かもしれないが、「自己責任」の内実を解きほぐす途(みち)は遠のく。

 諦めちゃいない。現行の個人…

この記事は有料記事です。残り3894文字有料会員になると続きをお読みいただけます。

【春トクキャンペーン】有料記事読み放題!スタンダードコースが今なら2カ月間月額100円!詳しくはこちら

  • commentatorHeader
    中川文如
    (朝日新聞コンテンツ編成本部次長)
    2023年10月19日11時30分 投稿
    【視点】

    「責任」って言葉を丁寧に解きほぐしてくださった勅使川原真衣さんの論考を拝読して、なぜか、私の脳内には我が家の洗濯物が浮かんでしまいました。 家族4人です。毎日、それなりの量の洗濯物が出ます。妻の仕事は朝早いので、その洗濯物を干すのはだいた

    …続きを読む
  • commentatorHeader
    中川文如
    (朝日新聞コンテンツ編成本部次長)
    2023年11月28日12時40分 投稿
    【視点】

    「Nekopanchi」さんから不肖・私のコメントに感想をいただきました。ありがとうございます。その内容の一部をご紹介させていただきます。 「第三者に起こったことと、その原因を切り離して最適解を考えるという姿勢とは別に、当事者自身が『

    …続きを読む