強硬なイメージ、実は柔軟な側面も 「正統」訴えてきたハマスに何が
イスラム組織ハマスのかつてない大規模なイスラエルへの奇襲は、専門家の間でも驚きをもって受け止められています。これまでのハマスの行動と何が違うのか。そもそもハマスとはどのような組織なのか。パレスチナの抵抗運動の著書があり、パレスチナ・イスラエル情勢に詳しい東京大学中東地域研究センターの鈴木啓之(ひろゆき)・特任准教授(中東政治)に聞きました。
――これまでのイスラエルとの武力衝突と比べ、今回のハマスによる大規模攻撃をどう見ていますか?
武力組織というイメージが強いかもしれませんが、ハマスの政治指導部は2006年にパレスチナの国政選挙で勝って以降、自分たちは民意で選ばれた正統な勢力だと訴えてきました。
しかし今回は、数千人規模の戦闘員がイスラエルに侵入し、子どもや高齢者を含む多くの一般市民を殺害したり、ガザに拉致したりしている。これまでのハマスの方向性とは大きく異なる動きです。
攻撃後もハマスの政治指導部は、ガザへの人道的介入を求めたり、我々は子どもを攻撃していないと主張したりしていて、実際の戦闘員らの行動とは大きな乖離(かいり)があります。ハマスとしての政策転換なのか、それとも政治指導部との調整がうまくいっていない状態で軍事部門が起こした行動なのか。慎重に見極めていく必要があります。
源流は福祉団体、民衆蜂起きっかけに
――そもそもハマスとはどんな組織なのでしょう?
ハマスの母体は、1970年代からイスラムに基づく貧困救済などの社会事業を行っていた福祉団体とされます。エジプトのイスラム主義団体「ムスリム同胞団」の流れをくむガザのアフマド・ヤシン師らが、国家の保護を受けない占領地のパレスチナ人に対し、幼稚園やスポーツクラブのような活動を行っていました。
87年12月に占領下のパレスチナ人による対イスラエル民衆蜂起(第1次インティファーダ)が始まった直後、ヤシン師らがハマスの設立を決定。軍事部門を持った組織として歩み始めます。ハマスとは、アラビア語で「イスラム抵抗運動」を意味する頭文字の略で、同じつづりと発音で「情熱」「熱狂」という意味もあります。
――社会福祉団体が、なぜ「パレスチナ最大の軍事組織」とも言われるようになったのでしょうか?
第1次インティファーダで社会が抵抗へと流れていく中で、自分たちも社会福祉を通じて占領下の人々を支えるだけでなく、実力部隊を持たなくてはダメだと考えるようになったのだと思います。
その後のハマスは、福祉、政治、軍事部門を持った複合的な政治組織として発展していきます。48年のイスラエル建国を不正とみなし、イスラムの教えに基づいたパレスチナ国家の樹立を掲げており、イスラエルとパレスチナ解放機構(PLO)が和平の交渉相手として互いを認めた93年のオスロ合意には反対の立場をとりました。軍事部門は自爆攻撃などの手段でイスラエルとの武装闘争に踏み出す一方、福祉部門は貧困層への支援や、教育、医療活動を通じてパレスチナ市民の支持を広げていきます。
――政党として政治に関わるようになったのはいつごろからですか?
政治部門が大きな存在感を示すようになったのは、05年にパレスチナの地方議会選挙に参加したころからです。翌06年、パレスチナの国政選挙にあたる第2回自治評議会選挙に参加し、過半数を占める議席を確保します。
全132議席の半分を比例区、半分を選挙区で選出する仕組みで、比例区ではハマスと自治政府の主流派組織ファタハの支持は拮抗(きっこう)していました。ただ、選挙区でハマスは戦略的に候補者を絞ったのに対し、ファタハは若手とベテラン間の意見相違によって候補者が乱立し、票が分散してしまった。結果、ハマスが単独第1党を勝ち取ったのです。
米欧は「テロ組織」に指定、なにが原因?
――ハマスが民主的な選挙で選…
【春トクキャンペーン】有料記事読み放題!スタンダードコースが今なら2カ月間月額100円!詳しくはこちら
- 【視点】
日本から見るとハマスは過激な武装集団でイランの手下のように見えるが、必ずしもそんなことはない、と指摘するインタビュー記事。こうした丁寧な解説と理解が必要なのだが、日本はアメリカ経由での中東情報に振り回され、極めて単純化した中東情勢の理解に基
…続きを読む
イスラエル・パレスチナ問題
イスラム組織ハマスが2023年10月7日、イスラエルに大規模攻撃を行いました。イスラエルは報復としてハマスが実効支配するパレスチナ自治区ガザ地区に攻撃を始めました。最新のニュースや解説をお届けします。[もっと見る]