「参加だけ」では不十分 政治・社会参加する若者を育てるキーワード

Re:Ron発

日本若者協議会代表理事・室橋祐貴=寄稿
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日本若者協議会代表理事・室橋祐貴さん寄稿(全文公開記事)

 「こども基本法」が2023年4月に施行され、子どもの権利や、若者の政治・社会参加が注目されるようになってきた。

 「こども施策を社会全体で総合的かつ強力に推進していくための包括的な基本法」(こども家庭庁)である同法では、政策決定過程において、子ども・若者の声を聞くことが政府、地方自治体に義務付けられており、国や地方自治体では、子ども・若者の声を聞く事業が始まっている。政府や地方自治体の有識者会議に20歳代の若者が委員として参加するなど、変化は確実に起こりつつある。

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 しかし、真の意味で、子どもの権利が尊重され、若者の意見が大事にされているかといえば、首をかしげざるを得ない。なぜか? 「パターナリズム」の精神が社会に根強く残っていることに加え、若者政策や子どもの権利を考えるときに、「影響力」というキーワードが抜け落ちているからである。

 パターナリズムとは、権力のある大人(家父長)が、子どものためを思って、代わりに意思決定をすることである。子どものためを思って、が曲者なのだ。実際のところ、大人は子どもの意見を聞いていない。子どもは未熟であり、正しい判断ができないという、信頼の無さが根底にはある。

 こうした「支援・保護」の対象としての子ども像が根強く残っているために、大人が発言を許可した場合には意見を聞いてもらえるが、大人が想定していない場所での発言は期待されていないのである。

 最たる例が、選挙と社会運動の時の大人の反応の違いである。

 例えば、衆議院選挙が行われた2021年には、若者に投票を呼びかけるキャンペーンが多く見られた一方、同時期に開催された気候変動に関する国際会議「COP26」(第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議)にあわせて、若者らが路上で気候変動対策の強化を訴えた活動には多くのバッシングがあり、心を病んだ若者もいる。

 最近では、批判を恐れて、顔を伏せて記者会見に出たり、就職活動に悪影響が出ないよう、名前を出さずに活動したりする若者も増えている。

「若者=未熟」という大人の視線

 このように選挙が近づけば、低い投票率を理由に、「若者よ、選挙に行こう」と、大人は若者に語りかける。候補者や公約、投票場所など、大人が用意した選挙には、しきりに参加を呼びかけるのだ。そして、若者が投票に行かなければ、「だから、若者向けの政策は軽視されるのだ」と、現状肯定を迫られる。

 ところが、政治をより良くするために、より権限の大きい候補者に若者がなろうとする(被選挙権年齢の引き下げを主張する)と、「まだ早い」と否定される。自主的にデモを企画し、街中で声を上げれば、「学生は勉強しろ」「社会人になって変えよう」「投票に行け」と、強くたたかれる。ひいては、バックにいる大人に操られているのでは、とけげんに見られる。

 そうした発言の背景には、若者は未熟であり、権利の主体ではなく、支援・保護対象だと見なすまなざしがある。「支援・保護」対象としての子ども像の延長線である。かくして、大人からの「期待」に合わせた行動をする若者が増える。自分で考えることなく、大人の目線を常に気にして行動を決める。

 研究結果を見ても、規範意識を身につける若者は増えており、「校則を守ることは当然だ」と答える高校生は増加傾向にあるという(平野孝典2015「規範に同調する高校生」)。

 また、中村高康・東京大学教授らが行った調査(2020年、各都道府県の高校生男女計約3千人を対象に実施)によると、中学3年生の約8割が内申書調査書)を意識して学校生活を送っている。生徒会役員に立候補した生徒のうち、内申書を意識して立候補した生徒の割合は73.3%に上り、部活動の部長・副部長も76.4%が内申書を意識して立候補していた。

 自分で決めているように見えて、実際は、決めさせられているのである。これでは、主体的に社会・政治に参加する若者が育つはずはない。

 もう一つ重要なキーワードが「影響力」だ。

 現在、中間整理中の「こども大綱」の案には「影響力」というワードは入っていない。しかし、欧州の若者政策の文章には、必ずといって良いほど、「影響力」あるいは「エンパワメント」という言葉が入っている。子どもや若者の声を聞く理由は、影響力を発揮してもらうためだからである。

 子どもや若者自身のこと、属している社会に影響を与えるために、意見を聞く(自己決定権と民主主義)。これは幼少期から意識されており、スウェーデン幼児教育の基本方針には、「子どもの参加と影響力」という項目がある。

参加した、結果の無力感

 要は、「参加」だけでは不十分なのだ。「影響力」を与えなくては意味がないどころか、むしろ弊害すらある。形の上では参加していても、影響力を与えられなければ、「自分には力がない」というように学び、声を上げようとしなくなるからである(学習性無力感)。

 残念ながら、日本の現状は既にそうなっている。

 私が代表理事をつとめる日本若者協議会が約800人の高校生を対象に実施したアンケートでは、「児童生徒が声を上げて学校が変わると思いますか?」という問いに、約70%の高校生らが「(どちらかというと)そう思わない」と回答している。

 理由は、「(生徒会の)候補者が何度も校則を変えると言ってきたけど変わったことはない」(鳥取県・私立高校 生徒)、「実際に学校に陳情したことがあり、受け入れる旨の回答をもらったが、後にほとんど対処してもらえていなかった事がわかった」(奈良県・私立高校 生徒)、「どうしても変えたいという要望を持ち、声をあげたとしても、『それはしょうがない。生徒なんだから』とまるで取り合ってもらえないから」(千葉県・国公立中学校 生徒)など。学校内で声を上げてきた経験から、こうした感覚に陥っている様子がうかがえる。

 「参加」したことが、社会に対する参加意欲が増すどころか、逆にマイナスの影響を与えてしまっているのである。

 そもそも日本では肝心の目的が抜け落ちているため、政府が行う子どもや若者の意見を聞く事業も、アンケートやヒアリングといった影響力の小さい事業であることが多い。小さい会議には若者が入っていても、重要な会議(官邸や中央審議会)には入っていないのだ。学校でも、校則についての意見は聞かれても、学校・授業の方針や成績付けなどについては決して聞かれない。

 若者が本当に影響力を発揮するには、大きな方針を決める重要な会議に入っていなければならない。だが、実態はそうはなっていない。

「影響力」とは「エンパワメント」

 これに対し、欧米での若者の参加は大きく異なる。スウェーデンでFFF(Fridays For Future)のデモに参加した際、沿道にいた大人が拍手をして応援している風景に驚いたが、海外では、若者が社会運動に参加することは、投票と同様に、推奨(当然視)されている。

 教育を通じて、政治参加の手段は決して一つではなく、様々な手段があることを、デモやロビイングなどの具体的な方法も含めて、教えているからである。学校を休んで、デモに参加することも推奨されている(公欠扱いになる)。

 勉強は学校だけでやるものではない。市民の一人として、社会運動に参加することが重要だという考えが背景にある。

 「影響力」という点から見ると、高校生の時から教育委員会や中央審議会に入っていることは珍しくなく(フランスではあらかじめ中央教育審議会に4人の高校生枠が設けられており、全国組織から選出される)、日常生活においても常に自分の意思を求められる。

 例えばスウェーデンでは、新しく法律を制定する際は、必ず、法案に関わるステークホルダーの合意を得るプロセスが確立されている(レミス制度)。若者に関する政策を通すときは、若者団体が議論に参加し、政策決定に関与している。

 リソースに欠ける若者でも社会に影響を与えられるように、若者団体に多額の経済的支援を行ってもいる。スウェーデンでは、子ども・若者団体に限定して、年間約45億円の助成金が、フィンランドでは、ユースワークのために年間94億円ほどの助成金が、政府から出されている。

 もちろん、お金は出しても、活動内容に口は出さない。支援・保護対象ではなく、権利の主体として、子ども・若者を見ているために、主体性を尊重するのである。

 このように一貫して、若者に影響力を与える(エンパワメント)ために、若者政策を整備している欧米と異なり、日本はこの考え方が徹底的に抜け落ちている。そして、大人が期待する行動をするよう若者に求める。結果として、“空気”を読み、権力者に忖度(そんたく)し、周りと同調する大人が育つ。

 自分たちで社会課題を解決する、子どもの権利を重視し、若者をエンパワメントするように変えなくてはならない。日本に真の民主主義が根付く一歩はそこから始まる。(日本若者協議会代表理事・室橋祐貴=寄稿)

むろはし ゆうき 1988年神奈川県生まれ。日本若者協議会代表理事。慶応義塾大学経済学部卒。同大政策・メディア研究科修士課程中退。大学在学中からIT系スタートアップや、経済メディアの記者として活動。文部科学省高等教育の修学支援新制度の在り方検討会議」委員。月刊「潮」、教育新聞などで連載中。

       ◇

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    能條桃子
    (NOYOUTHNOJAPAN代表)
    2023年10月11日14時37分 投稿
    【視点】

    室橋さんの寄稿、その通りだと思いながら読みました。 私が4年前に立ち上げた若者の政治参加を促進することを目的としたNO YOUTH NO JAPANも、設立当時から「若者が声を届け、その声が響く社会へ」と掲げており、声を届けた先に社会が受

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    中川文如
    (朝日新聞スポーツ部次長)
    2023年10月17日16時50分 投稿
    【視点】

    身近な子育てに置き換えてみても、ストンと腑に落ちることばかりな室橋祐貴さんのご寄稿でした。 子どものため、よかれと思ってしたことが、実は、まったくもって、子どものためになってない。あれやれこれやれって子どもに言う割に、それ以外のこと、

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