家族であり自分自身でもあるジャニーズ 今ファンにできることは

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聞き手・堀越理菜

 創業者・故ジャニー喜多川氏の性加害問題が明るみに出て、ジャニーズ事務所に注目が集まっている。なぜメディアも社会も性被害を見過ごしてきたのか、という重要な問題に光が当たる一方で、一部にはアイドル文化そのものを批判したり、女性ファンを責めたりするような言説もある。ファンにとって、ジャニーズとはどのような存在だったのか。そしていま、ファンにできることは。自身も長年のジャニーズファンという日本大学国際関係学部助教の陳怡禎(ちん・いてい)さん(サブカルチャー、ファン研究)に聞いた。

男性優位の社会で感じる魅力

――ファンとして今回の問題をどう見ましたか

 台湾にいた中学生の頃にV6を知り、ファンになりました。その後は嵐や関ジャニ∞、SnowManなど他のジャニーズグループもどんどん好きになった。ジャニー氏の性加害に関するうわさは耳にしたことはありましたが、本人は姿を見せない伝説の人のような存在で、タレントたちが語るイメージもあり、現実のこととして想像できておらず、ショックでした。

――ジャニーズファンの大多数は女性です。ジャニーズのどんなところに魅力を感じるのでしょうか

 同じグループのメンバー同士、またはジャニーズの他のグループのメンバーとの友情に魅力を感じるファンがとても多いです。私はその背景には、ジェンダーの問題が隠されていると考えています。日本や他の東アジアの国々のような家父長制の社会の家族の中では娘の決定権は弱く、社会に出ても男性中心の構造の中では生きづらいと感じる女性も少なくありません。つまり女性は常に、男性が優勢になる世界に生きざるを得ない。男性しかいないジャニーズの世界では、女性ファンは自身を好きなタレントに投影して、現実では体験できない男性同士の絆を疑似体験できます。それが大きな魅力になってきました。

 それだけでなく、ほとんど女性だけのファンコミュニティーでは、女性たち自身に自己決定権があり、抑圧されることなく安心して自由に趣味をたのしむことができます。

――ジャニーズには「ジャニーズJr.」という独特の育成システムがあります。事務所が設置した外部の専門家による調査委員会はこのシステムに性加害につながる問題があると指摘しましたが、ファンの応援の熱量を高めてきた仕組みのようにも見えます

 ジャニーズJr.は、ダンスもほとんどできないような状態から、ファンの前に「お披露目」され、先輩のバックダンサーとしてステージに立ちます。いちから成長していく過程をこれほどオープンに直接見せるシステムは、ジャニーズ特有だといえます。

 Jr.たちが同期や先輩との絆を深めたり、成功したり失敗したりする様子を自身の体験に重ねながら、ファンもともに成長していく。そうして次第にジャニーズタレントを家族のように、タレントの体験を自分自身の歴史のように感じていきます。

――単に外見や、パフォーマンスに魅力を感じているのではないのですね

 ジャニーズのコンサートを見るとき、ファンはただステージ上のパフォーマンスを見ているのではありません。自分自身の中に蓄積した彼らの「歴史」を見ている。そこに自らの思いをかけ合わせることで化学反応が起きるので、アイドルのキラキラした笑顔に救われたとか、コンサートで力が湧いたといった、個人的な感動が生まれる。ファンとしての歴史が自分自身のアイデンティティーの一部になっているからこそ、ジャニーズに対する批判が自分の身を切るように苦しいのです。

いまファンができることは

――今回の問題を機に、「実力…

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