走る街 立ち止まる人々 在日中国人写真家がみた故郷の交錯する時空

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北京=林望

 「異邦人」として故郷に立った写真家の目に映ったのは、疾走する母国に生じた時空のねじれのようなものだった。

 中国内陸部、山西省の太原市で育った王露さん(34)は、独学で日本語を学んで2016年に来日し、武蔵野美術大学と東京芸術大学で写真を専攻した。現在は、東京を拠点に活動している。

 昨年10月に発売された写真集『Frozen are the Winds of Time(邦題:時間の風、そのまま)』(ふげん社)は、今年47回目を迎えた木村伊兵衛写真賞にノミネートされた。

 受賞は逃したものの、選考委員からは「中国の急激な発展とは、最早、クリシェ(紋切り型、決まり文句)のような言葉だが、王露は、その急激な変化から取り残された時間の中でゆっくり生きる――生きざるを得ない――父の姿を、家族としての近さと、記録者としての距離との間で捉え、感銘を与えた」(平野啓一郎氏)などと高い評価を得た。

 2000年、タクシー運転手だった父が勤務中の事故で脳にダメージを受け、精神障害を患った。王さんが11歳の時のことだ。

 自分の世界に閉じこもり、かんしゃくを起こす父。懸命に看病する母が、その疲れやいらだちを娘に向けることもあった。

 王さんが高校進学と同時に寮に入り、大学は北京、さらに日本に留学したのも、そんな実家から離れたいという思いがあったと王さんは明かす。

 それでも、コロナ禍が始まるまでは年に一度くらいは帰省した。

 父の世界のなかで、王さんは11歳の少女のままでいるようだった。成長した王さんを見ても娘だと分からず、自分の妹と間違えたりした。

まるで異邦人

 事故で止まった時間を生きる…

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    望月優大
    (ライター)
    2023年6月30日19時35分 投稿
    【視点】

    写真が良い記事はそれだけでとても良いですね。映っているのは故郷の「山西省の太原市」でしょうか。この場所が現代中国の中でどんな場所であり、これまでどんな変化を遂げてきたのか、知りたいと思いました。写真集を手に取ってみたいと思います。

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