富山の定番は「おいしく長持ち」先人の知恵

佐藤美千代
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 富山県内では、店に並ぶ昆布製品の多彩さに目を奪われる。だしや煮物用に各産地の銘柄がそろい、とろろなど加工品も豊富。そして、土産物や総菜売り場の定番が、刺し身や切り身を挟んだ「昆布締め」だ。

 「サス」と呼ぶカジキや、タイ、タラなどの白身魚がよく使われる。昆布のうまみ、香りをたっぷり含み、時間がたつほど歯応えと凝縮感が生まれる。

 「昆布が日常に根付いた富山では、昆布巻き、昆布を使ったかまぼこと並んで代表的な食べものです」

 出身地の富山市に暮らす金沢学院短大食物栄養学科の教授、原田澄子さん(76)はいう。

 今でこそ商品化されているが、昔は家で作るものだった。原田さんの母は、祭りなど大勢が集まる食事の席で、昆布を配ったという。ごちそうの刺し身が余ったら、挟んで持ち帰ってもらうためだ。

 作り方はごく簡単。昆布を酢水でふいて魚を並べ、好みでショウガのせん切りを散らし、上にも昆布をのせてラップで包む。軽く押さえて冷蔵し、数時間後から食べられる。

 昆布が魚の水分を吸ってくれるうえ、酢やショウガの効果も相まって雑菌がつきにくい、と原田さん。

 「冷蔵庫がない時代にも、生ものを長持ちさせることができた。おいしく、理にかなっている。先人の知恵のたまものです」

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 富山の人の昆布好きは、総務省家計調査で証明されている。昆布への年間支出額(2人以上の世帯)は2022年、都道府県庁所在市などの中で富山市が最多の1574円。過去20年に限っても、最多が福井市だった21年、京都市だった13年を除き、首位を占めてきた。

 昆布は江戸時代、産地の北海道と大阪を結んだ北前船が、各地の寄港先にもたらしたといわれる。

 「なかでも富山で昆布の食文化が突出しているのは、北海道への出稼ぎがあったからでしょう」。黒部市生地(いくじ)地区にある四十物(あいもの)昆布の会長、四十物直之さん(70)が教えてくれた。

 「ふるさと生地の歴史点描」(市立生地公民館編)によると、明治時代の1883年ごろ、この地から初めて10人が北海道に渡り、ニシン捕りに従事した。95年には500人が渡航し、昆布採取に携わった。最盛期の1904~06年には県下一円の出漁者が生地から出航し、3千人に達したとの記録があるという。

 四十物さんの祖父も海を渡って網元になり、海産物や肥料を商った。その次男にあたる父が生地に戻り、昆布の加工を始めている。

 北海道・羅臼など出稼ぎ先に移住した人も多く「20、30年前まで、この辺りの家には向こうの親戚から羅臼昆布が大量に送られてきたものです」と四十物さんはいう。

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 そうした背景があり、肉厚で濃厚なだしが出る高級品、羅臼昆布が富山のスタンダードになり、昆布締めにも使われた。現在は、より薄く、平らで扱いやすい真昆布をカットしたものが「昆布締め用」として普及している。

 「これがゴールデンウィークによく売れます」と、製造や販売を手がける室屋(高岡市)の社長、室谷和典さん(53)。いつの頃からか、ワラビなど山菜の昆布締めも定着し、旬にまとめて作る消費者がいるという。4、5年前、東京の百貨店であった物産展でも昆布締め用の人気が高く、1袋300円ほどの商品を20、30と買う客がいた。

 「お土産にもらったり店で食べたりして、自分でも作ろうという人でしょう。昆布締めの知名度が上がっているのに驚きました」

 使った後の昆布は軟らかい。ひとくち大か細切りにし、「つま」として食べるほか、あら汁のだし、つくだ煮の材料などに利用するといいそうだ。(佐藤美千代)

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