研究力復活への「秘策」 実現性乏しくても京大教授が提案するわけ

有料記事

小林哲

 日本の科学技術は研究力が低下し、厳しい状況にある。立ち直らせるには、社会保障費の一部を削ってでも大学にお金を回すべきだ――。こんな提案を社会保障や科学政策の研究者がしている。医療や年金の費用がふくらみ国の財政が硬直化するなか、これまでの政策の抜本的な見直しが必要だという。その真意を聞いた。

広井良典・京都大学人と社会の未来研究院教授

ひろい・よしのり 旧厚生省(現厚生労働省)で社会保障・福祉の運営などに関わった。千葉大助教授、同教授などを経て2016年から京大教授。

 ――近著「科学と資本主義の未来」で、年金の予算の一部を科学研究や大学教育など若者のために使うべきだと主張しています。

 「日本の科学研究、とりわけ大学における研究環境は危機的な状況にあります。若手研究者のポストは、任期付きの不安定なものが増えました。千葉大に20年、京都大に7年務めていますが、文系理系を問わず短期的な成果を求められて、腰を据えた研究がやりにくくなっています。研究のポテンシャルは確実に下がっていて、日本の将来にとって大きなリスクです」

 「科学研究の危機は、大学が独立法人化された20年ほど前から問題視されていました。打開しようと、政府も様々な議論をして政策を検討してきた。しかし、結局いつも壁にぶつかり、抜本的な政策を打ち出せていません」

 ――どこに問題があるのでしょうか。

 「国の施策が科学政策、大学教育の枠内で行われていて、らちがあかないというか、議論が堂々巡りしているように見えます。単純な言い方をすれば、役所のタテ割りの発想にとらわれていて、文部科学省の予算の枠内で研究や大学のお金をやりくりする発想に陥っている。もっと役所の壁を乗り越えて、全体を俯瞰(ふかん)した予算の使い方を考えていく必要があります」

 ――それがなぜ年金を削るという話になるのですか。

 「日本の国家予算の圧倒的な…

この記事は有料記事です。残り2798文字有料会員になると続きをお読みいただけます。

【春トクキャンペーン】有料記事読み放題!スタンダードコースが今なら2カ月間月額100円!詳しくはこちら

この記事を書いた人
小林哲
くらし科学医療部長
専門・関心分野
科学全般、8がけ社会