同性婚認めずは違憲 同性カップル排除は疑問 名古屋地裁判決要旨

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 同性婚が認められないことを「違憲」と判断した5月30日の名古屋地裁判決の要旨は次の通り。

 【憲法24条1項(婚姻の自由)に違反するか】

 24条1項は、婚姻は「両性」の合意のみに基づき、成立すると規定する。憲法制定当時、同性間に法律婚を及ぼすことを要請されていたとは解し難い。

 その後、多数の諸外国で同性婚制度が導入され、我が国でも地方自治体の登録パートナーシップ制度の導入が進み、同性婚の法制化を求める声が上がるなど社会情勢が変化している。

 24条の主眼は、明治民法下の家制度を改め、婚姻を含む家族生活について民主主義の基本原理である個人の尊厳と両性の本質的平等の原則を定めたところにあった。同条が同性間に法律婚を及ぼすことを禁止しているとは解されない。

 伝統的に、婚姻制度は男女の結合関係を承認するもので、生まれた子の保護・育成を通じ、家族の中核を形成するととらえられてきた。現行の法律婚の拡張は、異性婚を前提に構築された婚姻制度全体を見直す契機になり、広く社会に影響を及ぼすことが避けられない。

 同性カップルにいかなる保護を付与する制度を構築するのかは、現行の法律婚制度とは別の規律を設けることもありうる。同性婚を肯定している国でも、パートナーシップ制度などを先行させ、後に同性婚制度に移行または併存させるなど、制定過程は様々だ。社会情勢の変化を考慮しても、憲法が一義的に同性間に法律婚を及ぼすことを要請するとは解し難い。したがって、24条1項に違反するとはいえない。

 【憲法24条2項(個人の尊厳と両性の本質的平等)に違反するか】

 24条2項は、現行の法律婚を同性間に及ぼすことを要請していないと解するのが整合的だ。

 法律婚を利用できることが重大な法的利益であることは疑いの余地がない。同性カップルは自然生殖の可能性がないという点を除けば、異性カップルと何ら異なるところはない。

 性的指向及び性自認は、医学心理学上、人生の初期または出生前に決定されている。自らの意思や精神医学的な療法によって変更されないにもかかわらず、法的利益を享受できない状態に陥っており、同性カップルと異性カップルとの間に、著しい乖離(かいり)が生じている。

 婚姻の本質は真摯(しんし)な意思で共同生活を営むことにあり、その価値は人の尊厳に由来し、重要な人格的利益だ。人格的利益を実現する法律婚制度は、両当事者の関係が正当だと社会的に承認されることが欠かせない。

 現行制度は、歴史的な伝統的家族観に根差すもので、それ自体合理性を有する。しかし、婚姻の意義は、単に生殖と子の保護・育成のみにあるわけではなく、親密な関係に基づき永続性をもった生活共同体を構成することが、人生に充実をもたらす極めて重要な意義を有する。家族の多様化が指摘されており、伝統的な家族観が唯一絶対のものではなくなっている。

 同性愛を精神的病理であるとする見解は、20世紀後半ごろには否定され、性的指向は障害ではないとの知見が確立している。諸外国では1989(平成元)年にデンマークが登録パートナーシップ制度を導入。2000(平成12)年には、オランダが世界で初めて同性婚制度を導入し、現在までに28カ国が同性婚制度を導入している。

 我が国でも多数の地方自治体が登録パートナーシップ制度を導入し、2018(平成30)年以降の意識調査では、同性婚の賛成派が約6割半に及ぶものや、賛成派が男性の約7割、女性の9割弱を占める結果もある。

 同性カップルは、その関係が公証されず、保護するのにふさわしい効果の付与を受けるための枠組みすら与えられない甚大な不利益を被っており、結婚契約など公正証書を締結するなどしても解消できない。

 わが国のLGBTの人口規模は、15(平成27)年及び16(平成28)年に行われた調査では4・9%から7・6%だった。法律婚制度が制定されて70年以上が経過している。同性カップルが被る不利益は、その規模も期間も相当なものだ。

 立法は国の伝統や国民感情などを踏まえ、全体の規律を見据えた総合的な判断を要する。しかし、同性カップルが国の制度によって公証されたとしても、国民が被る具体的な不利益は想定し難い。地方自治体の登録パートナーシップ制度導入の増加により弊害が生じたという証拠はなく、伝統的家族観を重視する国民との間でも、共存する道を探ることはできる。

 同性カップルが法律婚による重大な人格的利益を享受することから一切排除されていることに疑問が生じている。現状を放置することは、個人の尊厳の要請に照らして合理性を欠き、国会の立法裁量の範囲を超えるものとみざるを得ない。

 24条2項に違反する。

 【憲法14条1項(法の下の平等)に違反するか】

 14条1項は、法の下の平等を定めている。

 性的指向が向き合う者同士の婚姻をもって初めて本質を伴った婚姻といえる。同性愛者にとって同性との婚姻が認められないのは、婚姻が認められないのと同義で、性的指向による別異取り扱いに他ならない。国会の立法裁量の範囲を超えるものとみざるを得ず、14条1項にも違反する。

 【国家賠償法上違法かどうか】

 我が国に同性婚の公式な承認の必要性が勧告されたのは、17(平成29)年の国連人権理事会の普遍的定期的審査(UPR)であり、地方自治体の登録パートナーシップ制度が初めて導入されたのは15(平成27)年4月だった。具体的な法案が国会に提出されたのは、19(令和元)年6月のことであり、伝統的な家族観は今日も失われてはおらず、国会が正当な理由なく長期にわたって立法措置を怠っていたと評価することはできない。

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