寄生虫に感染した魚は釣られやすくなるのか? それとも釣られにくくなるのか?

 そんな素朴な疑問を確かめた論文が、科学誌に掲載された。当初立てた仮説と結果は違ったが、釣りファンには嫌われがちな寄生虫と魚との関わりの奥深さを明らかにした。

 研究したのは、北海道大博士後期課程2年の長谷川稜太さん(動物生態学)。渓流魚のイワナと、その口に寄生する「サルミンコーラ」という寄生虫を対象に、釣れた魚と釣れなかった魚で感染率に違いがあるかを調べた。

 調査場所は北海道函館市郊外の渓流。過去の釣りの結果が影響しないよう、禁漁区で特別な許可を得て行った。実際に長谷川さんがイモムシを使ってえさ釣りをし、釣れなかったイワナは魚類調査などで使う「電気ショッカー」でまひさせて捕獲した。500メートルほどの区間で、4日間で釣りと電気ショッカー合わせて312匹のイワナを捕獲した。

 立てた仮説は「寄生された魚は釣られにくくなる」。寄生されることで食欲が落ちたり、口に寄生されることでえさを食べにくくなったりして、釣りえさに食いつかなくなると考えた。

 結果は、釣れた124匹の感染率は37・1%、釣れずに電気ショッカーで捕獲した188匹の感染率は34%で、一見すると大きな差は出なかった。

 だが、体長の割に体重が重いか軽いかの「肥満度」で分析したところ、はっきりとした傾向が見て取れた。肥満度が低い「やせた」イワナについては、寄生された方が釣られにくく、仮説通りの結果だった。一方で、「太った」イワナは、逆に寄生された個体の方が釣られやすくなっていた。

 太っていて体力があるうちは、寄生虫に取られたエネルギーを取り戻そうと、積極的にえさを食べるようになったからではないかと考えられるという。

 長谷川さんは「寄生された魚も釣れてしまうという、釣り好きにはうれしくない結果かもしれませんね」と話している。

研究室で長谷川さんを指導している小泉逸郎准教授は今回の研究を「小学生の自由研究のような発想」と言います。後半では、研究のきっかけや寄生虫が生態系の中で果たしている役割について紹介します。

 ただ、より病原性の高い寄生虫などの場合は、「太った」魚であってもえさを食べられなくなり、今回とは違う結果となる可能性も考えられるという。

 研究室で長谷川さんを指導し、今回の論文の共著者でもある小泉逸郎准教授(動物生態学)は「寄生虫と釣りの関係というのは小学生の自由研究のような素人的な発想だが、意外にもこれまで調べられていなかった。寄生虫のおもしろさや奥深さを示した研究だ」と振り返る。

 長谷川さんは、サルミンコーラ…

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