只見線、きょう11年ぶりに全線開通 「全国有数の秘境路線」売りに

斎藤徹
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 JR只見線は1日、豪雨災害により不通が続いていた会津川口―只見間が復旧し、11年ぶりに全線が再開する。福島県や沿線自治体は「全国有数の秘境路線」を売りに、観光路線として維持存続を図る。ただ、再開後も営業赤字は続き、地元自治体には路線維持のための財政負担がのしかかり続ける。人口減少に歯止めがかからないなか、ローカル線再生に向けた前途多難な挑戦が始まる。(斎藤徹)

 2011年の新潟・福島豪雨で甚大な被害を受けて不通になった只見線の会津川口―只見間について、県や会津17市町村が鉄路存続を選択したのは、観光路線としての需要が見込めると判断したためだ。

 山深い渓谷を流れる只見川沿いを走り、四季折々の絶景やアーチ橋など風景に溶け込むような鉄道施設が見られる路線は、鉄道ファンには人気が高い。観光用渡し舟「霧幻峡(むげんきょう)の渡し」をはじめ、沿線には知名度が高い観光スポットもある。

 県などは「日本一の地方創生路線」を掲げ、只見線全体の利活用計画をまとめた。JR東日本と連携し、臨時列車の運行や首都圏客向けのツアーなどの企画や撮影スポットの整備、周辺観光施設のおもてなし強化などに取り組んできた。

 ただ、只見線の営業赤字は深刻だ。豪雨災害前の09年度、只見線全体の収支は列車を走らせるのに22億6千万円かかるのに対し、収益は2億円足らず。営業赤字は20億円を超えた。不通区間に限れば、列車運行に3億円かかったにもかかわらず、収益はわずか500万円だった。

 JR東が今年7月に初めて公表した線区別収支でも、20年度は只見―小出(新潟県魚沼市)間で8億6千万円の赤字を計上するなど、全線区で赤字だった。

 JR東は当初、不通区間を廃線にして代替バスを走らせることを地元側に提案した。これに対し、県や会津17市町村は、復旧費用や維持管理費を負担してでも全線再開することにこだわった。県の担当者は「豪雪に閉ざされる冬場は大事な交通手段でもある。鉄路存続のメリットとデメリットを勘案した結果、鉄路を残すことが、地元住民の利益に資すると、最終的に判断した」と話す。

 地元の意向を受け、JR東は、不通区間は線路など鉄道施設を復旧させたうえで県に無償譲渡し、その後は維持管理を県が担い、JR東は列車を運行させる上下分離方式を提案。この方式は第三セクターが運営する鉄道で先例があるが、JRの地方鉄道で採用されるのは、只見線が初めてだ。

 17年の最終合意時には、年3億円かかる同区間の維持管理費について、会津17市町村も負担することが決まった。年間維持費の負担割合は県7割、市町村3割とした。沿線自治体については、金山町が約1300万円、只見町が約1900万円と分担する割合を高く設定した。ただ、将来世代への負担増につながるとして、地元住民からは復旧に反対する声も少なくない。

 地元のある男性は、8月の大雨で県内の喜多方市で磐越西線の鉄橋が壊れたことを引き合いに、「災害が多発しており、同じ箇所がまた壊れないという保証はない。その時、多額の復旧費用を本当に支払えるのか」と不安をもらす。

 金山町の押部源二郎町長は「負担すると決めた以上、不測の事態が発生しても対応できるよう、さらなる財政健全化に努めていく必要がある」と話す。始発駅がある会津若松市の室井照平市長も「多くの人の協力で再開した只見線の観光振興策をしっかり考え、みんなで支えていかなければならない」と気を引き締める。

 秋の紅葉や冬の雪景色が美しい只見線は、台湾などアジアからの外国人観光客にも人気がある。だが、新型コロナウイルスの感染拡大により勢いをそがれた。収束後、どこまで回復するかは未知数だ。

 地域交通政策に詳しい福島大の吉田樹・准教授は「今回復旧するのは、大量輸送が必要とされる区間ではない。ただ、鉄路としての存続を決めた以上は、単なる交通手段以上の価値を生み出していく努力が、県や地元自治体、JR東日本には求められる」と指摘する。

     ◇

 〈只見線〉 福島県会津若松市と新潟県魚沼市を結ぶ全長135・2キロの路線。福島県を走る「会津線」と新潟県を走る「只見線」が、1971年に統合され、現在の路線が開業した。会津川口―只見間(27・6キロ)は、ダム建設の資材搬送のため電源開発が敷いた専用鉄道だった。2011年7月の新潟・福島豪雨で鉄橋の流失や線路の崩壊など甚大な被害を受けた。同区間は三つの橋が流され、約11年にわたり不通となり代行バスの運行が続いていた。

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