「妊娠したら強制帰国」信じた末に…元実習生を追い詰めた「無関心」

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新屋絵理 黒田陸離
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 妊娠したら強制帰国――。産んで間もないわが子の遺体を埋めたとして罪に問われた元技能実習生は、広島地裁裁判員裁判で、こうした「うわさ」が実習生らの間で広まっていたと明かした。うわさを信じ、周りに妊娠を告げられず犯行に及んだという被告に、裁判所はどんな判決を下したのか。

 ベトナム人のシングルマザー、スオン・ティ・ヴォット被告(27)は約2年半前、幼い娘を母国に残して養育費を稼ごうと来日した。仲介手数料を払うため、両親の年収の100倍にもなる借金を背負った。

 「私は大学に進学できなかった。娘には苦労してほしくない」

 実習先となったのは山あいの農園。野菜の収穫などをしながら、約10万円の月給のうち9割近くを家族に仕送りした。

 妊娠に気づいたあと、交際相手とは連絡がつかなくなったという。

 2020年11月、広島県東広島市の寮で女児を出産。テープで口をふさぎ放置して死亡させ、敷地内に埋めた――。起訴状にはそう記されている。死体遺棄と保護責任者遺棄致死の罪に問われた。

判決言い渡した裁判長の指摘

 「間違いありません」。初公判で罪を認めた。

 弁護人「周りに相談しようとしましたか」

 被告「迷いました」

 弁護人「なぜですか」

 被告「帰国させられる。借金をまだ返せていないのに」

 「妊娠したら強制帰国」。そんなうわさを耳にしていた。

 市内の病院を2回訪れた。最初は中絶のため、2回目は産むことも考えた。だが、いずれも通訳がいないことを理由に断られたと法廷で述べた。

 「とても悲しかった。全てが嫌になった」

「妊娠したら帰国」。専門家の調査では、実習生たちが実際にこう告げられている状況が浮かびました。弁護側の証人として出廷した、広島文教大の岩下康子准教授は「女性が増えても見て見ぬ振りをしてきた」という制度の問題点を指摘します。

 上着でおなかを隠して働き続け、誰もいない寮の廊下で女児を出産。大きな泣き声が部屋中に響くと「会社にばれる」と怖くなった。

 偶然、テープが目に留まった…

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この記事を書いた人
新屋絵理
神戸総局
専門・関心分野
裁判、人権、国際情勢、フランス