差別解消条例、県議会で大詰めに 罰則はなし 三重

黄澈
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 あらゆる差別の解消を目指す包括的条例の制定を目指す三重県議会で、議論が大詰めを迎えている。公表されている条例の中間案は、基本理念で「差別の禁止」を明示する一方、「対話を通じた差別の解消」を重視し、罰則は設けていない。18日には条例案を審議してきた特別委員会があり、最終案のとりまとめに進む。

 県議会は2020年5月、コロナ禍で広がったSNS上の誹謗(ひぼう)中傷問題などを受け、「差別解消を目指す条例検討調査特別委員会」を設置。その後、既存の人権条例を全部改正する方向で議論を進め、今年1月31日~3月1日、中間案についてパブリックコメントを実施した。

紛争解決体制を整備

 中間案での条例の名称は「差別を解消し、人権が尊重される三重をつくる条例」。基本理念では「何人も、不当な差別をはじめとする人権侵害行為をしてはならない」とうたう。

 最大の特徴は、差別事案を解消するための具体的な道筋を示したことだ。

 条例案は、県に対し、人権問題に関する相談に応じる義務を課し、県は救済制度の紹介などの助言や、関係者間の調整に当たる。差別を目撃した人など第三者の相談にも応じる。

 相談では問題が解決しなかった場合の紛争解決体制も整備した。差別を受けた当事者や家族ら関係者が申し立てた場合、知事は必要に応じて「県差別解消調整委員会」の意見を聞いたうえで、相手に反省を促す「説示」や双方に解決案を提示する「あっせん」などを行う。

 それにも従わない場合、知事は、行政指導に当たる「勧告」も出せる。しかし、対話を重視し、公権力の行使には慎重であるべきだとして、勧告を無視しても罰則はない。また、いずれかの紛争解決措置を実施した場合、知事は事案の概要を公表するものの、氏名の公表は行わない。

ヘイトは対象外?

 一方、説示や勧告などの措置はあくまでも「当事者間」の紛争に適用されるため、対象外となる人権問題もある。中間案の「解説」によると、例えば、被差別部落の所在地を公開するなどの行為は、人権侵害を助長・誘発するが、当事者間の紛争とは言いがたく、対象にすることは難しい。

 また、「○○人を皆殺しにしろ」などの言葉で、人種や民族差別をあおり、大阪市川崎市などが規制条例を定めているヘイトスピーチも、説示などの対象から外れる。ヘイトスピーチは多くの場合、特定個人を対象にしていないため、刑法の名誉毀損(きそん)罪や侮辱罪の適用は難しく、法務省の人権救済制度の対象にもなりにくい状況が続いてきた。

 ただ、法務省は19年に出した地方法務局長らへの依命通知や、その後に自治体向けに出した参考情報で、「不当な差別的言動が集団に向けられた場合でも、その集団に属する者が精神的苦痛を受けるなど具体的被害が生じている場合、個人の人権が侵害されていると解するのが相当」として、裁判所が外国人集住地区でのデモを差し止めた事例などを示した。県条例案の解説も、こうした見解に留意している。

ネット対策を条例に

 一方、インターネット上の人権侵害を防止するために実施しているモニタリングを、新たに条例で規定する。県のモニタリングでは現在も、被差別部落所在地の公開や、不特定の集団へのヘイトスピーチを、削除要請の対象にしている。

 県施設での人権侵害行為については、川崎市条例のような利用制限規定は設けず、「防止に努める」との規定にとどめた。(黄澈)

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