プーチン氏がよく知る、NATOの「弱点」 ウクライナ危機の深層

有料記事ウクライナ侵略の深層

ロンドン=金成隆一
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 ロシア軍が24日、ウクライナへの全面的な侵攻を始めました。首都キエフなど各地の軍事施設ミサイル攻撃を受けたほか、地上部隊も国境を越え、主要都市に迫っています。この事態に北大西洋条約機構(NATO)はどう対応するのでしょうか。同日、NATOに詳しい英バーミンガム大学のマーク・ウェバー教授(国際政治)に聞きました。

Mark Webber 英バーミンガム大学教授(国際政治)。専門は北大西洋条約機構(NATO)研究。かつてはロシアと旧ソビエト連邦の研究もしていた。

 ――欧州にある一国家の首都が攻撃を受けています。NATOには対処する方法があるのでしょうか。

 創設以来72年の歴史の中で、NATOは様々な危機に直面してきました。今回の危機に関連するのは、やはりロシアがクリミアを併合した2014年でしょう。あの年にウェールズで開かれたNATOサミットで、NATOは自らの役割を加盟国の集団防衛に戻すという根源的な方針を決めたのです。

 それは加盟国であるラトビアリトアニアエストニアのバルト3国、ポーランド、黒海地域のルーマニアとブルガリアの防衛強化を意味し、そのための政策をその後の8年間で策定しました。その方針の終着点が、昨年のアフガニスタン撤退でした。

 抑止力というNATO本来の目的は14年以降に回復している。NATOは今、軍事同盟として、加盟国の防衛と、加盟国への侵略の抑止を主な目的としているのです。

 ――加盟国ではないウクライナへの対応は困難でしょうか。

 NATOがウクライナの防衛のために行動するのには限界があります。ウクライナ防衛の義務がないからです。先ほどNATO事務総長の会見(2月24日)が終わりました。彼は「ウクライナを支援するために何ができるのか」と少なくとも2回、記者から質問されましたが、きちんとした答えを示すことはできませんでした。

 いま決まっていることは、加盟国であるポーランドやバルト3国、ルーマニア、ブルガリアの防衛を強化するプロセスを継続することです。

 事務総長は、ウクライナを直接支援する措置については沈黙しています。ウクライナにとっては悪いニュースです。ウクライナへの軍事支援があるとすれば、それは特定のNATO加盟国が個別に行うことになります。

 例えば英国は対戦車ミサイルを、米国もミサイルを、オランダデンマーク、バルト諸国、ポーランドも武器を提供していますが、大規模な侵攻に対処するには不十分です。現時点での私の評価では、NATOは加盟国を守るためには直接的かつ効果的に行動するが、残念ながら加盟国でないウクライナに同じことはできません。繰り返しになりますが、条約では同盟国にウクライナ防衛の義務はないのです。

 ――西側諸国の同盟という観点では、昨夏のカブール陥落が衝撃でした。同盟国内でも十分な調整がなかった。プーチン大統領のウクライナ侵攻の意思決定に影響を与えたと思いますか?

 そう思います。二つの形で答えます。一つ目はモスクワの意思決定にとっての意味、そして二つ目は、同盟国にとっての意味です。

 侵攻はなぜ今だったのか、と…

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