アート映画の“聖地”岩波ホール、閉館の衝撃 支配人が語る内実

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編集委員・石飛徳樹 佐藤美鈴
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 東京・神保町の「岩波ホール」が7月で閉館する。1980年代のミニシアターブームに道を付け、その後もアート映画の“聖地”であり続けた。閉館の理由を支配人に聞くとともに、半世紀近く映画界に果たしてきた役割を振り返る。(編集委員・石飛徳樹、佐藤美鈴

 「全国から反響があって、本当に申し訳ないと思うばかりで……」

 長年支配人を務めてきた岩波律子さん(71)は声を詰まらせながら語った。「1日の観客がかつての(上映)1回くらいの人数。去年あたりはもうこれでいいのかな、という気持ちはありました。やはり最低レベル、ある程度入らないと」

 コロナ禍で2020年は2月末から3カ月半、さらに改修工事で21年2月まで4カ月あまり休館した。「この2年くらいはだいぶ休んで、始まってからも『えっ!?』とすくんでしまうような数字が続きました。うち(の観客)は高齢の方が多く、(コロナを)気にして控えてらしたんだと思うんです」。1日の観客が50人に満たない日や、夜の最終上映で客が一人も入らず、開始10分で映写機を止める日もあったという。

 周辺の大学に、ゼミやクラス単位で割引になる学生支援プログラムの活用を呼びかけたり、看板を目立たせたりしたが、伸び悩んだ。「若い方に来ていただきたいと思っていろいろ試みたんですが、あまり反応がなくて。今は学校で映画の鑑賞会もしてないのかも。娯楽映画はご覧になるのかもしれないけれど、うちは心理的に(ハードルが)高いのかなと思いました」

「新しい動きが出てきてくれれば」期待も

 岩波ホールが始まった当初、律子さんの父の岩波雄二郎・元岩波書店社長は「お金のことを気にしないで良いことをして」と言っていたという。律子さんは「映画は文化。皆であまり収入にならないようなことをやってきた。もうけようと思ってももうからないし、なんでこの映画がこんなにヒットしたのかというのも永遠に謎なんです。以前、(岩波ホールを運営する)岩波不動産がメセナ賞をいただいたんですけど、メセナのような活動が難しい時代と状況になってきたということかな、と思います」と話した。

 一方、ある可能性も口にした。「ここまで行き詰まって宣言もしたので、『やっぱり続けます』とはいかないと思う。ただ、いったん閉じるけれど、また新しい動きが出てきてくれれば、と私は若い子に期待しています」。7月末の閉館後も、活用法は未定だが、改装したばかりのホールはそのまま残すという。

記事の後半では、岩波ホールが切り開いたミニシアター文化と、果たしてきた役割について映画評論家の秦早穂子さんに聞きながら考えます。

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