「ウイルスに国境ない」コロナ情報、少数言語に翻訳 研究者ら協力

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小堀龍之
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 新型コロナウイルスへの注意を呼びかける世界保健機関(WHO)の情報を、多くの言語に翻訳してウェブサイトで無料で発信するという、日本発の取り組みが進んでいる。各国の言語学者らが協力し、少数民族の言語を中心に、これまで100を超す言語に翻訳した。背景には、「英語など主な言語にコロナの情報が偏っていたことを正したい」という研究者の思いがある。

 「パンデミックの初期には、情報が少なく、新型コロナに関する誤った情報や俗説が広まり、多くの混乱が生じたため、このウェブサイトは私やコミュニティーにとって非常に役に立ちました」

 インド北東部のシッキム州に住むクンザン・ナムギャルさん(41)は、朝日新聞の取材にメールでそう回答した。約7万人が使う少数言語デンジョン語を話す。

 「デンジョン語では、こんなに詳しい情報はほかにありません」

日本の研究者が呼びかけ、取り組み広がる

 国際基督教大学の李勝勲(イスンフン)・上級准教授(言語学)らは、WHOがコロナに関する不正確な情報を否定するため英語で発信している「コロナに関する迷信の打破」を、様々な言語に翻訳してウェブサイト「COVID-19 Myth Busters in World Languages(https://covid-no-mb.org/別ウインドウで開きます)」に掲載している。

 国際的な学会で知り合った各国の言語学者ら約60人に協力してもらい、インドネシアのアチェ語、中国のノスイ語、インドのボージュプリー語、グアテマラのウスパンテコ語、ペルーのケチュア語、東欧などのイデッシュ語、カメルーンのバサ語といったアジアやアフリカ、欧州などの少数言語、非公用語を含む多言語に翻訳。一昨年4月に始めた時点では9言語しかなかったが、現在は115言語(1月15日時点)まで増やした。

 サイトで紹介しているのは、コロナに関するごく基本的な情報だ。

 「抗生物質はばい菌には効きますが、新型コロナウイルスなどの病原体には効きません」

 「日光ないし25℃以上の熱に身をさらしても、新型コロナウイルス感染症は防げません」

 「新型コロナウイルスはドライヤーでは殺菌できません」

 日本語や韓国語、アラビア語など主な言語のほか、特に力を入れているのがデンジョン語のような少数言語や非公用語だ。

 李さんによれば、こうした少数言語はふだんから軽視されがちで、各国の政府や報道機関が発信する新型コロナの情報も、英語や現地の主な言語で伝えられることが多い。

 李さんは南アフリカの少数言語などを研究しており、コロナの情報が英語や公用語のアフリカーンス語中心で、そのほかの言語には、ほとんど訳されていないことに気付いたのが翻訳を始めたきっかけだった。

 「僕らは当然だと思っていた情報が伝わっていませんでした」

■機械翻訳ではダメなわけは…

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    田中宝紀
    (NPO法人青少年自立援助センター)
    2022年1月17日9時27分 投稿
    【視点】

    少数民族の言語への翻訳は貴重かつ重要な取り組み。新型コロナウィルスという世界的に共通の脅威に対して、情報弱者となりやすい人たちを対象に各国の言語学者が力を合わせて情報を届けていくことは、コロナ以外にも環境や南北問題など共通の課題について理解

    …続きを読む
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