「哲理なき現状維持」選んだ国、行政の独裁に歯止めは 保阪正康さん
衆院選が終わった。新政権が発足した直後という異例の解散・総選挙で、自民党が絶対安定多数を確保する一方、野党共闘で臨んだ立憲民主党は惨敗に終わった。この結果から、有権者が政治に負託したメッセージをどう見るか。憲法が蹂躙(じゅうりん)された戦前の昭和史に詳しい保阪正康さんに、選挙の意味を聞いた。
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「戦後が死んでいくのか」
――今回の選挙結果は何を意味すると考えていますか。
「三つの分析をしています。一つは国民は何にも増して現状維持を望んだということです。コロナ後を見据えて、何を最初に変えなければならないか、といった差し迫ったことがない中で、とにもかくにも現状の安定を求めたと思います」
「二つ目は、日本維新の会や公明党、国民民主党など、自民党に考え方や政策などで近接した政党が伸びたということです。逆に距離感がある立憲民主党や共産党が減らした。総体的に保守勢力の追認という枠内にあり、護憲・戦後体制の崩壊、あるいは空洞化という結果になった。戦争体験などは検証されず、戦後が死んでいくのか、という思いを強く持ちます」
「そして立法府の無力化が更に進むのではないか、という懸念が三つ目です。野党が生き延びるには、立法府で自分たちの政策を明確にして政権と戦うことが必要ですが、与党はなかなか国会を開きません。戦後の議会政治の歩みの中で、今ほど無性格、無人格、無哲学なことはなかったでしょう」
「つまりは哲理なき現状維持です。衆院選で展開されたのは政策論争とは無縁の選挙運動で、この国をどこに持っていくのか全く不明で、先行きに恐ろしささえ感じます」
――二つ目の点に関しては、維新の躍進で、改憲容認勢力が3分の2超に達しました。
「戦後の終焉(しゅうえん)とは、そうした結果を踏まえたからです。具体的にどの条文という前に、改憲するという大網をかけて議論をしていくのでしょうが、混乱するでしょう。今の憲法は非軍事的憲法で、戦争体験という歴史と対になっています。日本だけの都合で憲法を変えるわけにもいかないでしょう。日本やドイツは国連憲章の中で連合国に対する『敵国』にくくられており、条文、とりわけ9条に手を加えることがどう受け止められるか。狭い視野だけでは語れません。歴史的に議論すべきことが数多くあるのです」
――三つ目の点では与党の多数支配という基本構造が続きます。
「安倍、菅政権で、政府の意向が先行し、国会があってなきような『行政の独裁』ともいうべき状況が続いて来ました。衆院選では、死んでいるような立法府が復権できるのかどうかや、有権者が政治に参加する意味が問われたと思います」
――安倍政権は「安全保障関連法」で集団的自衛権を事実上解禁し、菅政権は日本学術会議の会員の任命を拒否しました。また両政権とも、野党の国会開会要求を無視し続け、憲法にのっとらない政治を続けました。
安倍・菅氏の政権運営における「行政の独裁」とは何か、なぜ憲法をないがしろにする政治が続くのか。保阪さんの論考は後半に続きます。
「それが典型的な行政の独裁…
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