漢字は不要か 韓国で論争いまも 金慶珠先生はどう考える?
同じ東アジア文化圏に属する日本、韓国、中国ですが、日本では漢字と平仮名と片仮名、韓国ではハングル、中国では漢字と、それぞれ使う文字が異なります。では、かつて用いていた漢字をやめ、ハングルにシフトした韓国の人たちは、漢字をどう見ているのか? 日韓両言語のコミュニケーション論、メディア論などを専門とする東海大教授の金慶珠(キムキョンジュ)さんに聞きました。(聞き手・稲垣直人)
――いまの韓国の人たちにとって、漢字とはどんな存在なのでしょうか。
「言葉や文字は、コミュニケーションの手段であると同時に、民族のアイデンティティーのよりどころという役目も果たします。かつて漢字を使いながら、いまではほぼ完全にハングルにシフトした韓国も、そうした言葉の二つの側面を投影する歴史をたどってきました」
――といいますと?
「韓国では朴正熙政権下の1970年代初め、『ハングル専用』と呼ばれる動きが一気に進み、公文書や教科書は、漢字ではなくハングルで全面的に表記されるようになりました。その背景には、日本による植民地支配時代に、朝鮮語の使用禁止や創氏改名が行われた記憶も密接に関係しています。植民地時代を契機に、ハングルには、民族の誇りを象徴するという意味がさらに強まりました。70年代にハングル専用の動きが強まったのは、50~60年代は朝鮮戦争、軍事独裁政権の発足と政治的混乱が続き、70年代になってようやく自国の言語政策に注力する余裕ができたからだと思います」
――その流れは変わらず、現在に至っているのですか?
「そうですね。いまの韓国社会で、漢字を見ることはほとんどありません。新聞もほぼ全面的にハングルです。漢字が読めない若者もどんどん増えています。かつて小・中学校では必修科目として漢字の授業があり、私もそうして漢字を勉強した世代です。それも今や、選択科目のような扱いで、『漢字は勉強したい人がすればよい』といった具合です。この流れは、元には戻らないでしょうね。ただ、国民が使う文字はハングルだけでよいのか、漢字も併用すべきかを巡っては、70年代から現在に至るまで、なお論争があります」
――いまだに、ですか?…
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