障害ある子の被災 居場所失う苦しみ 言語聴覚士の訴え

川野由起
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 【宮城】障害児やその家族の避難生活からたどったのは、障害児が居場所を失い、周囲から取り残されていく様だった。約130人から被災経験を聞き取り、1冊の本にまとめた多賀城市の言語聴覚士神桂子さん(67)は訴える。「そばにいる障害者に気づいて」

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 学習障害がある子どもたちのため、1990年から市内で「のび塾」を開く。発達障害、自閉症、脳性まひ、難聴など多様な障害のある子どもたちと接してきた。

 震災で子どもたちが大きなストレスを感じ、戸惑いを強めたと聞いた。塾では障害の程度や生活習慣などに応じて接し方が異なる。その幅広さを知ってもらうべきだと聞き取りを始めた。

 障害によって不安を強く感じたり、見知らぬ人や慣れない環境に過敏に反応したりしてしまう子どもたちは、一様に緊急時の避難に混乱していた。

 地震の怖さに動けなくなってしまい、先生に避難を指示されても「いやだ」と拒む男子中学生。避難先の体育館で知らない人に囲まれ、騒ぎながら走り回ってしまう小学生の女子児童。他の避難者の迷惑を感じて、自宅避難を余儀なくされた家族もいた。

 避難所を出て自宅に戻ったとしても、電気や水道などが復旧しない環境になじむのが難しい子どももいた。男子中学生は停電でテレビが見られないことを受け入れられず、母親に繰り返し「テレビ、ビデオありません」と報告した。

 高齢者や子どもであれば、ある程度、見た目で配慮が必要かどうか判断できる。だが、障害者の中には一見して必要かどうか分からない人も少なくない。であれば、と神さんは願う。「障害のある人が当たり前に街にいることに気づいてほしい」

 障害児たちの被災体験の記録は、2019年に自費出版した本「3・11 あの時、そしてこれから~障がいのある子ども達も大人達も、そこにいる~」にまとめた。その過程で地域との交流が大事だと痛感した。

 災害時にいつも家族がそばにいるとは限らないし、「周りに迷惑をかけてはいけない」と考える家族もいて、助けを求めるのを難しく捉えがちだ。

 だからこそ今、保育園や小児科のクリニックから呼ばれて保護者や保育士らと話をする際には、「『助けてください』と自分から言えるようにしてください」と呼びかける。

 地域の人にとっても、日頃の交流がいざという時の配慮に役立つはずだし、避難所の壁際をあらかじめ空けてくれていたら目の見えない人が伝って移動できる。そんなちょっとした配慮の積み重ねが、障害のある人たちの支えになる。

 塾を始めてから約30年。これまで関わってきた障害児や家族たちとの経験も、本にまとめようと考えるようになった。障害児や地域が互いに手をさしのべ合えるようになれば、「子どもの生きづらさを減らせるはずだ」と信じるから。(川野由起)

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