第8回陰謀論の浸透「近代市民社会の前提崩壊」 片山杜秀さん

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聞き手・山本悠理
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 投票不正が行われ、トランプ氏を陥れている……。昨年の米大統領選においては様々な陰謀論が飛び交い、日本国内でもそれに同調する声が聞かれた。陰謀論が勢力を増しつつある背景には、何があるのか。政治思想史に詳しい片山杜秀慶応大教授は「近代市民社会の前提の崩壊」をみる。そしてそれは「バベルの塔」の破滅へとつながっていくのではないかと指摘する。

 ――陰謀論が盛んに語られるようになった現状について、どう思いますか。

 近代までの人類の歴史、ことに不安定な時期は陰謀論やデタラメなうわさに支配されてきたとも言える。

 日本国内でみると、明治10年代、コレラの流行によって大量の死者が出た。全国各地で一揆が起こり、それによる死者も出るという事態にまで発展した。その際、特に困窮した農村漁村部などでは「コレラ患者を隔離して家族を死に目にあわせない政策は、政府が患者の生き肝を米国の要人らに売るためのたくらみだ」という陰謀論が流布した。

 大正時代の関東大震災においても、「ソ連の工作だ」「富士山が噴火した」などと様々な流言が飛び交った。最も顕著だったのが、「多くの朝鮮人が朝鮮独立や日本社会主義革命の組織的陰謀に加担し、火を付けたり、井戸に毒を流したりしている」というものだ。

 ――むしろある時代までは、陰謀論やうわさが横行する状態が普通だったと。

 日本に限らず、何事にも陰謀論が出てくるのが、世の中のスタンダードだったと理解したほうが良い。陰謀論に支配されない健全な社会を造ろうと、特に19世紀以降、近代市民社会は公教育の水準を上げてきた。同時にテレビ、ラジオ、新聞などのメディアを通じ、確固たる情報に触れるための基盤も築いた。日本で言えば、そうした社会の機能は1980、90年代に一つの高みに達した。

 日米の「陰謀論」を追うシリーズ。インタビューの後半では、陰謀論に向き合うために必要な「三本の矢」を示してくれます。

 だが、その前提は瓦解(がか…

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この記事を書いた人
山本悠理
デジタル企画報道部
専門・関心分野
現代詩、現代思想、演劇・演芸、法律学