「無名だった父の絵です」 娘の投稿が呼び寄せた奇跡

有料記事いつも、どこかで

若松真平
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 2019年1月30日、画家の杉山新一さんは81歳で亡くなった。

 夫婦でテレビを見ていて突然静かになったので、妻のまゆみさん(67)は「寝ちゃったのかな」と、そのままにしていた。

 10分ほど経ってのぞいてみると、顔がまっ白に。急いで救急車を呼んだが、すでに心臓は止まっていて、病院で死亡が確認された。心不全だった。

 50年近く前、住んでいたアパートの部屋が隣同士で知り合い、16歳差で結婚した2人。

 苦しむことなく旅立った新一さんの顔を見て「余は満足じゃ、とでも言いたそうだわ」と、まゆみさんは思った。

娘にとっての父は

 次女の藤崎綾子さん(38)にとっては、面白くて穏やかな父だったが、絵のことになると別人だった。

 家族で食事をしながらワイワイ盛り上がった後、話し忘れたことを思い出して、仕事部屋にいる父を訪ねてドアを開けた。

 「入ってくるな!」。まるで人が変わったかのような大声で怒鳴られたことを、今でも覚えている。

 亡くなった後、綾子さんは父の作品を写真に収めた。

 棺の中に手紙を書いて入れるにあたって、写真をプリントし、その裏にメッセージを書こうと思ったからだ。

 軍艦や戦闘機、恐竜、SF、オカルト、人物画……。残された作品は幅広かった。

 父を失った悲しみと、送り出すための慌ただしさから解放されたのは、葬儀の翌朝だった。

 自ら「無名の画家」と称し、家族全員がそう思っていた父のことを、せめて知り合いに伝えようとツイッターでつぶやいた。手紙のために撮りためてあった写真を添えて。

 「私事ですが1末(1月末)に父が亡くなりました、色々と終わり気持ちの整理がつきそうです。私の父は無名でしたが絵描きでひたすら絵を描き続けた生涯でした! フォロワーの皆様良かったら私の父の絵をほんの一部ですがちょろっとで良いのでみてやって、こんな絵描きがいたのかぁと思ってくださったら嬉(うれ)しいです」

 投稿から約1時間後、スマホに返信の通知が届き始めた。

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 「名前は知らなかったけど雑…

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