第4回子育て夫婦の一日 その場面もあの場面も、実はSDGs

共生のSDGs コロナの先の2030

植松佳香 笠原真 坂本進 イラスト・高田ゆき
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 新型コロナウイルスで傷ついた世界が復興をめざすうえで、SDGs(エスディージーズ)(持続可能な開発目標)が道しるべになると注目されている。子どもたち、そして未来の子どもたちに豊かな社会をつくるため、私たちは今の生活をどう変えたらいいのか。幼い子どもを育てる30代夫婦の1日を例に、SDGsとの関わりを考えた。

06:30 妻は時差出勤、夫は在宅ワーク

 〈新型コロナの感染拡大で働き方は大きく変わった。この日は妻が時差出勤で早朝に自宅を出て、夫は在宅ワークだ〉

 ぎゅうぎゅう詰めの電車に揺られ、会社や学校にたどり着く――。新型コロナの感染が広がる前は当たり前だった光景は、今年、大きく変わった。多くの企業や団体が、ラッシュ時の通勤を避ける時差出勤や、自宅で仕事をする在宅ワークを感染防止対策として採り入れたからだ。

 誰もが住み続けられるまちづくりは、SDGsの一つだ。特に、東京など都市部のラッシュ時の満員電車を減らすことは長年の課題だった。だが、新型コロナの流行で働き方が変わり、国土交通省によると、今夏の首都圏の駅のピーク時の利用状況はコロナ前の約7割にとどまった。

 在宅ワークが広がった企業や行政機関では、デジタル化が一気に進んだ。具体的には、①会議や営業でウェブ会議システムを使う②紙の資料は配らない③決裁にハンコを使わない――などだ。技術の進歩による仕事の効率化も、SDGsの一つだ。

08:00 夫婦で家事を分担。妻は朝食づくり、夫は送り迎え

 〈夫は妻が早朝につくった朝食を息子に食べさせ、保育園へ送った後は洗濯。洗濯を終え、コーヒーを飲んで一息ついた〉

 性別を問わず、誰もが活躍できる環境を整えることは、持続可能な社会の実現に欠かせない。だが、総務省の調査(2016年)によると、6歳未満の子どもを持つ共働き世帯では、夫が家事や育児を行う時間は1日あたり46分なのに対し、妻は4時間54分だ。

 世界経済フォーラムが昨年発表したジェンダーギャップ(男女格差)報告書によると、日本の男女平等の度合いは153カ国中121位。主要7カ国(G7)では最下位だった。

 コーヒーもSDGsに関係がある。コーヒー豆の産地があるアフリカや中南米では、大手企業など買い手の方が立場が強く、低い賃金で働かざるを得ないコーヒー農家がいる。国際人権団体は経済的な不平等をなくし、「正当な価格」で取引するよう呼びかけている。「正当な価格」で取引された商品を選ぶことは、貧困をなくすことにつながる。

11:00 子どもが保育園でお絵かき

 〈保育園でお絵かきの時間。息子はクラスの友達と休日の様子を描いている〉

 子どもの遊びの中にも、ジェンダーや差別に関連するSDGsがある。

 親の世代が幼いころ、クレヨンや色鉛筆で「はだいろ」と呼ばれていた色は、「うすだいだい」や「ペールオレンジ」と呼び名が変わった。肌の色は人によってさまざま。特定の色を「はだいろ」とすると、肌の色による差別意識を助長しかねないためだ。

 差別意識は時に悲劇をもたらす。アメリカでは今年5月、黒人男性が身動きできない状態で白人警官にひざで首を押さえつけられ、窒息死させられる事件が起きた。これをきっかけに、黒人差別に反対する運動が世界中で起こった。白を良しとする「美白」や黒を悪い例に使う「ブラック企業」といった言葉を見直す動きも出ている。

 「女の子は赤」「男の子は青」といった考え方も、性別による決めつけや差別を生みかねない。会話で「男の子だから」「女の子らしく」といった表現を使うのも同じだ。生まれた時の体と心の性が違う人もいる。誰もが平等に、自分らしく生きることができる社会を、SDGsはめざしている。

16:00 公園で散歩、子どもは魚や昆虫に興味津々

 〈夫が保育園へ息子を迎えに行き、2人は帰りに河原へ寄り道。息子は魚や昆虫に興味津々〉

 絶滅を心配されている生き物が私たちの身近な場所にもいる。例えばメダカ。昔は田んぼや小川でよく見られたが、約20年前に国から「絶滅の危険が増している種」に指定された。水が汚されたり、天敵となる外国の生き物が増えたりして、激減したためだ。

 国際組織IPBESの報告書によると、世界の動物や植物800万種のうち、100万種が数十年以内に絶滅する恐れがある。国連食糧農業機関は、多くの生き物が失われることは「将来、十分な食料をつくれなくなることにつながる」と警告する。身近な生き物を守るため、環境省はまず「生物多様性との関わりを日常の暮らしの中でとらえ、実感すること」を呼びかけている。

17:00 スーパーで買い出し

 〈朝早く出勤した妻は早めに仕事を終えた。帰宅前に自宅近くのスーパーで買い出しをした〉

 買い物では、環境や貧困のSDGsと関係する場面が多い。例えば、値引きされた食べ物を買うことや、冷蔵庫の中身を確認して無駄のない買い物をすることは、まだ食べられる食べ物を捨ててしまう「食品ロス」を減らすことになる。多くの人が食品ロスを減らせば、ごみが減るだけでなく、食べ物がなくて困っている人を支えることにもつながる。

 日本では7月からレジ袋の有料化が始まった。レジ袋の代わりにマイバッグを使ったり、ペットボトルの代わりにマイボトルを使ったりすることは、プラスチックごみを減らす。プラスチックごみは海で細かくなって生き物に取り込まれ、それを食べる人間に影響することも心配されている。

 また、スーパーには「MSC認証」や「FSC認証」の印がついた商品もある。この印は、持続可能な漁業でとられた水産物や、適切に管理された森林の木材からつくった製品であることの証しだ。一目で「環境にやさしい商品」を伝える取り組みだ。

21:00 子どもを寝かせ、ニュースやSNSをチェック

 〈息子を寝かせ、リビングでテレビのニュースを見る夫婦。妻は気になったニュースをスマホのSNSアプリで共有した〉

 SDGsの17目標を達成するには、国、自治体、地域社会、企業だけでなく、私たち一人ひとりの取り組みが欠かせない。

 デジタル化が加速する現代、私たちは世界中のさまざまな情報をすぐに手に入れることができる。そして、ツイッターインスタグラムフェイスブックなどのSNSを使って、気になったニュースを友人や知人と共有できる。

 貧困、飢餓、戦争、気候変動、男女の格差――。世界が直面するさまざまな問題について、気にかけたり、話し合ったりすることは、「私たちに何ができるか」「自分には何ができるか」を考えることにつながる。これがSDGs達成のはじめの一歩だ。

SDGsとは

 SDGs(エスディージーズ) Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)の略。人と地球と経済活動の調和をめざす世界共通の行動計画で、2015年の国連サミットで採択された。「誰ひとり取り残さない」を合言葉に掲げ、30年までの達成をめざす。貧困や飢餓の撲滅、ジェンダーの平等など17の大きな目標があり、それを達成するために169の具体的なターゲットを設けている。(植松佳香、笠原真、坂本進、イラスト・高田ゆき)

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連載共生のSDGs コロナの先の2030(全16回)

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