コロナ時代、「つながる」ために 加藤登紀子×山極寿一
4月に新曲「この手に抱きしめたい」をYouTubeで発表した歌手の加藤登紀子さんと、「社会的絆」の重要性を訴えてきた霊長類学者で京都大学総長の山極寿一(やまぎわじゅいち)さん。かねて親交のある2人が6月上旬、オンラインで対談しました。加藤さんは6月28日に東京・渋谷のオーチャードホールで定員1千人のコンサートを開催します。中止・延期が続いてきたコンサート再開の先駆けとなりそうです。コロナ禍が脅かす「つながり」の大切さ、その中で音楽が果たす役割とは。
音楽の効果とは?
山極 「この手に抱きしめたい」という新曲、すごく良かった。音楽は人間が言葉を発明する前に手にしたコミュニケーションツールで、「意味」ではなく「気持ち」を伝える効果があるんです。人間は言葉をまだ使い慣れてなくて、言葉だけでつながっていると、どうしても誤解や変な炎上が起きてしまう。
今、大切なのは人間がつながりあうこと。今回の新型コロナウイルスの蔓延(まんえん)で一つ良かったと思うのは、子供と大人、女性と男性、お年寄りと壮年期など、身体の仕組みや能力の違う老若男女がステイホームで時間を共有することができた。効率を求めるのではなく、お互いを尊重し合わないとうまくいかないことが、身に染みてわかった。
コロナウイルスの始まりが春だったのは、僕は救いだと思うんです。春から夏にかけていろんな植物が芽吹き、鳥がやってきて虫が増えていく。そういう自然の変化を、家に閉じこもっていても実感できる。それに触ってみる、対話をしてみることを通じて、自分というものを見つめる時間が得られたことはすごく重要。そしてそれと同じものを、他の人たちも見ているわけで。
加藤 今、バイトがなくなって学費や下宿の家賃も払えない大学生がいますよね。私たちの時代は貧乏が普通で、お金がなくたって誰かの家に転がりこむとか、誰かのおばさんがご飯作ってくれて「アンタ泊まっていきなさいよ」とか、そういう雑駁(ざっぱく)な時代だったんです。
私の「時には昔の話を」という歌に「道端で眠ったこともあったね/どこにも行けないみんなで/お金はなくてもなんとか生きてた/貧しさが明日を運んだ」という歌詞があるんです。若い人にも人気でコンサートで必ず歌う曲だけれど、今のきちんとした家庭で守られてきた学生たちが、「お金がなくたって平気だよ」と身をもって感じられるって、あるのかしらね。
山極 昔は人を通じてしか職…
【春トクキャンペーン】有料記事読み放題!スタンダードコースが今なら2カ月間月額100円!詳しくはこちら