在宅のストレス 心身を保つ「あかさたな はまやらわ」

山本奈朱香 松本紗知 栗田優美
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 新型コロナウイルスのために、ふだん通りの生活がしにくい状況が続いている。家にこもる時間が増える中、不安な気持ちに折り合いをつけながら、どう過ごせばいいのだろう。

 妻と2人暮らしの川崎市の男性(78)は週3日ほど、3歳の孫を預かっている。3月まで保育園に通い、今月からは幼稚園に入る予定だった。

 しかし、入園に向けた説明会も開かれないまま、緊急事態宣言が出て、長く家の中にいる生活に。「急に赤ちゃんのように甘えることもあり、ストレスをためている様子が気がかりです」。この状況がいつまで続くか分からないことも悩ましい。

 緊急事態宣言が出た地域では、多くの学校が3月から休校している。2人の小学生を育てる東京都立川市の主婦(36)は感染が心配で、買い物に行く時は子どもを留守番させ、できるだけ短時間で済ませている。食費や光熱費がかさんでいるのも頭が痛い。近々、夫も在宅勤務になる。

 親同士で話すのがストレス解消になっていたが、会う機会はほとんどなくなった。図書館が閉まって本も借りられず、子どもたちの楽しみも限られる。「でもうちだけではなく世の中みんな同じだから……」

 東日本大震災熊本地震などの自然災害や、子どもの自死など学校での事件・事故後の支援に関わってきた九州産業大学福岡市)の窪田由紀教授は、多くの人が抱える不安の大きな要因が「何が起きているのか分からない」ことだと指摘する。

親子で時間割 一人暮らしは電話やSNSで声かけ合いを

 本来、危機に向き合う時は、いま起きていることを正確に知ることが必要だが、新型コロナについては分からないことがまだ多い。

 仕事や学校など日常のスケジュールが崩れ、先が見えないことも問題を大きくしている。何も手につかずぼんやり、テレビを見て心配が募る、となりやすい。

 窪田さんは「朝はいつも通りの時間に起き、日々しなければいけないことを積み重ねることで生活のリズムができる」と話す。

 宣言の後、保育園や学童保育も休止になったり、利用を控えるように呼びかけられたりしている。

 子どもへの接し方について、窪田さんは「大人が不安だと子どもにも伝わる。なるべく平常心で」と助言する。窪田さんが提案するのが「小さな達成感」を持つことだ。

 例えば、小学生くらいの子がいるなら、親子で時間割を作る。同じ部屋にいても、「1時間目」はそれぞれの勉強や仕事をし、「2時間目」は一緒に料理をする。毎晩、家族で時間割を持ち寄り、お互いを褒め合うといったやり方だ。

 外出自粛や在宅勤務を求められ、特に孤立しがちなのが一人暮らしの人だ。窪田さんは「とにかく、人とつながってほしい」と呼びかける。会って話せなくても、電話やSNSを使って声をかけ合うことはできる。周りの人と気持ちを分かち合うことが助けになる、と言う。

 世界保健機関(WHO)も、一人でいる人に、つながりを持つ、日課を続ける、新たな日課をつくる、といったことを勧めている。

      

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新しいことに挑戦したり、趣味みつけたり

 感染そのものへの恐れと、気づかぬうちにほかの人に感染させる懸念。収入が減り、仕事や住まいも失うかもしれない心配。楽しみな予定が中止になり、飲みにも行きづらい。

 桜美林大学(東京都町田市)の池田美樹准教授のアドバイスは「できないことに目を向けるのではなく、できることに目を向ける」。制約の方に目が向きがちだが、災害時と違い、家も電気も水道も無事だし、食べ物も買える。

 「これを機に、室内で楽しめる趣味を見つけたり、新しいことに挑戦したりするのもよいでしょう」。忙しくてできなかった時間のかかる料理、パソコンやスマートフォンのカメラ機能を使った会話などを試すのも一案だ。

 教育、産業、スポーツ、医療など様々な分野でストレスとの向き合い方を研究・実践している人らでつくる「日本ストレスマネジメント学会」は今月1日、感染した場合に重症化しやすいとされる高齢者らに向け、心と体の健康を維持するための「あかさたな」をまとめた。

 「あ」は歩く、「な」は何でも食べる、といった具合だ。室内でじっとしていて筋力や気力が衰えてしまうことを案じ、スクワットや散歩などを勧める。「ら」はラジオ体操。手足の曲げ伸ばし、腰をひねる動作、深呼吸などが組み合わさっており、まんべんなく体を動かすことができる。

 学会の広報担当でもある池田さんは「ストレッチなど体を軽く動かすだけでも力が抜け、心のこわばりもやわらげる効果がある」と話す。

   

ウイルスについて考えない時間つくることも大切

 さらに大きな不安やストレスが心配されるのは、感染やその疑いで隔離・自宅待機になった人や、その周りの人たちだ。

 こうした人々に向けた心の持ち方のヒントが、3月下旬に日本赤十字社が発表した支援ガイド「感染症流行期にこころの健康を保つために」の中で紹介されている。最悪の事態を考えたり、孤独や寂しさを感じたりしやすいとして、「感情をありのまま受け止めましょう」「お気に入りの本を読んだり、音楽を聴いたりするなど、リラックスできる活動を」などと助言する。

 ガイドでは、感染すると重症化するリスクが高いとされる高齢者や持病のある人らへのヒントも紹介している。

 監修した諏訪赤十字病院(長野県諏訪市)の臨床心理士、森光玲雄さんは「人間は人との関わりや、その中で役割を持つことで心のバランスを保っている。終わりが見えず、長期にわたって社会生活が制限される状態が続くことで、活力が失われていってしまう懸念がある」と話す。

 一方で、感染拡大を防ぐためには、一人ひとりが注意し続けることが必要で「適度な緊張感を保ち続けることの難しさもある」。

 災害支援にも携わってきた森光さんは、心の不調を防ぐポイントの一つに、後ろ向きな情報のシャワーを浴びすぎないことを挙げる。テレビやSNSでは絶えず新型コロナについての情報が流れ、繰り返し触れることで不安が大きくなる。「情報に触れる機会を意識的に制限して、ウイルスについて考えない時間をつくることが大切です」

心穏やかに過ごすヒント

・いつも通りの時間に起き、日課を積み重ねる

・電話やSNSで人とのつながりを保つ

・できないことよりも、できることに目を向ける

・「小さな達成感」を大切に

・いつもはできない新しいことを試してみる

・新型コロナについての情報から離れる時間を持つ

・感情をありのまま受け止める

・読書、音楽を聴くなどリラックスできる活動を

(窪田由紀さん、池田美樹さん、森光玲雄さんへの取材から)

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