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2012年10月1日10時14分

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仕事のビタミン 鈴木茂晴大和証券グループ本社会長 7

写真・図版

鈴木茂晴(すずき・しげはる)1947年生まれ。慶大経卒。71年に大和証券(現大和証券グループ本社)入社。個人営業、秘書室などを経て91年に引受第一部長。97年に取締役、98年に常務。99年大和証券グループ本社常務執行役員などを経て、04年に社長就任。11年から会長。高山顕治撮影

■決められた時間内で成果を

 私が支店で個人営業を担当していた20代のころ。朝早くから夜遅くまで仕事をするのが普通でしたが、実はその間ずっと仕事をしていたわけではありません。

 外に営業に出た合間に、夏の暑い日はクーラーの利いた喫茶店で涼んだり、昼寝をしたりすることもありました。夕方に「少しおなかがすいたな」と感じると、中華料理店にラーメンを食べに行っていました。

 それもこれも、支店全体が「深夜まで仕事をするのが当たり前」という雰囲気だったことに起因しています。朝早くから深夜まで全力で働いていたら、体が持ちません。どこかで休む必要がありました。

 しかし、私は疑問に思っていました。実質的にはサボる時間を挟みながら深夜まで働くことが正しいのだろうか、と。

 そんなはずはありません。決められた時間内にきっちりと仕事を済ませて、できるだけ早く退社して、残りの時間は、語学や資格取得のための勉強、趣味など人間性を高めるための時間に充てたほうが良いに決まっています。人間的な魅力が増せば、顧客へのアピールにもなります。

 仕事が終了する時間が決まっていれば、社員たちは1日の業務効率を考えて、密度の濃い仕事をしてくれるはずです。営業マン時代の私の反省も踏まえ、決められた時間内にきっちりと仕事を終える仕組みが必要だと思っていました。

◆19時前退社ルールに強い反発

 そこで、2007年に導入したのが、社員の「19時前退社」の励行でした。わかりやすくいえば、「毎日どんなに遅くても19時までには全員が退社する」というルールでした。もちろん業務上、19時以降に残る必要がある場合は、申請すれば仕事は可能です。また、仕事上、海外とのやりとりが必要な部署などは適用外です。

 導入しようとすると、社内の一部から強い反発が起きました。社長就任後、女性が働きやすい仕組みを次々と導入していたのですが、「19時前退社」については、役員からも「社長、いろいろなことをおやりになって結構ですが、これは絶対に無理です!」との意見が出ました。

 私にしてみれば、当社が100年やってきたことと全く違うことをやろうとしているのですから、当然の反応でした。一番大変なことは、意識改革だからです。

 しかし私は、「これは絶対にやる」と強い調子で断言しました。「そのうちあきらめるのではないか」と思ったのでしょう。反対していた役員は、「それならやってみましょう」ということになりました。ただ、役員だけでなく、現場の支店長からも「仕事量が増えているのに、できるわけがない。若手はともかく、営業成績を任せられる自分たちはとても無理」という空気が伝わってきました。

 さて、実際に始めてみると、案の定、19時を超える支店が出たのですが、超過する時間は、ほとんどが10分、15分と短時間でした。これは私と反対勢力の両方に顔を立てようとした結果ではないか、と見ました。

 状況をよく見ると、残業代のかかる若い世代は早く退社しているのですが、残業代のつかない管理職が残って仕事をしていることが分かりました。

◆ルールを守らなければ転勤?

 私は1カ月を通して退社時間が何度も19時を超えている支店の複数の支店長に対し、「この規則が守れないようであれば、転勤候補だ」と人事から電話をさせました。

 もちろん、「勤務時間中に200%の力を発揮して、限られた時間で成果を出すように」という制度の意義も伝えました。逆に言うと、営業時間内にいい加減に怠けている人は「辞めてもらってもいい」というのが私のメッセージでした。

 「社長は本気だ」という見立てが全国の支店を駆けめぐるのにそれほど時間はかかりませんでした。こうしたうわさは流れるのが早いですね。後に全支店が19時までに仕事を終えるようになりました。

 ただ、私はこれで「浸透した」とは見なしませんでした。なぜなら、支店長が「なんでもいいから、とにかく19時までに帰れ」と言っている状態だったからです。

 半年ほど経ってくると、退社時間が18時30分、18時と早まってくる支店が増えてきました。こうなれば本物です。

 限られた時間を自分でコントロールしながら仕事をする意識改革は、会社の競争力を高めた、と自負しています。会長になった今も、社員たちには自分の頭で考え、限りのある時間をできるだけ有意義に使って欲しいと思っています。(聞き手・古屋聡一)

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