メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

現在位置:
  1. 朝日新聞デジタル
  2. 記事
2012年11月5日10時11分

印刷用画面を開く

この記事をスクラップ

このエントリーをはてなブックマークに追加

仕事のビタミン 鈴木茂晴大和証券グループ本社会長 9

写真・図版

鈴木茂晴(すずき・しげはる)1947年生まれ。慶大経卒。71年に大和証券(現大和証券グループ本社)入社。個人営業、秘書室などを経て91年に引受第一部長。97年に取締役、98年に常務。99年大和証券グループ本社常務執行役員などを経て、04年に社長就任。11年から会長。高山顕治撮影

■社員の忠誠心が会社を強くする

 「19時前退社」の励行や女性が活躍するための人事制度など、社長に就任後、社員が働きやすい環境づくりに心を配ってきたことをお話ししてきました。

 なぜ、私はそうした取り組みに力を入れたのでしょうか。それは成長を続けるには、会社への忠誠心が高い社員を増やすことが重要だと考えているからです。

 わかりやすくいえば、大和証券の店頭に来たお客様に対し、社員が真心のこもった接客をして、「感じがいいなあ」と思ってもらえるようにしたい。それには、社員が会社から大事にされていないとだめなのです。

 会社から大事にされていない社員は、お客様を大切にできないと思っています。

◆180度評価

 支店は営業の最前線です。ここで働く若手たちが成長するには、きちんとした指導ができる支店長の存在が欠かせません。

 私が最も悪いタイプの上司として分類している人は、個人攻撃をする人です。とくに、弱い立場にいる人を集中的に攻撃する人はだめです。

 当社には「180度評価」というものがあります。これは部下が上司を1〜5点で評価する制度です。少人数ですと、評価がかたよってしまう可能性がありますが、数十人以上の部署で出た結果は、ほぼ正しいもの、として受け止めています。私が社長に就任していた際、この評価で2点台の結果が出た支店長には異動してもらいました。

 結果を見ていると、部下に優しい人が必ずしも良い結果が出るとは限りません。人当たりが良くても、優柔不断なタイプの上司は厳しい評価を受けています。一方で、厳しく接する上司でも、「この人の下で働いていれば、いろいろと学べるし、技術も高まる」と見られている上司の評価は高いのです。

 私が駆け出しのころ、しかり方のうまい上司がいました。「おまえみたいな優秀な社員が、なんでこんなミスをするんだ」。言い方は厳しいのだけれども、「優秀」という一言があると、やる気を失わないんですよ。

 若い人の成長を促す上で、そういう気配りはとても大切だと思います。

◆社会的な使命を自覚

 強い会社に必要な要素は、「連帯感」「信頼感」「仕事への誇り」だと思っています。

 「連帯感」とは、「一緒にいい仕事をしよう」と一体感を持って楽しく仕事ができることです。連載の第3回でお話ししましたが、若いころに営業をしていてうれしかったのは、仕事で成果を上げると、同僚たちが「ハッスル」と言って、一緒になって喜んでくれたことでした。仲間の努力や成功をほめ合う精神が「ハッスル」であり、当社に受け継がれている大切な遺伝子です。

 「信頼感」は、社員と経営陣の関係です。会社が力強く前に進んでいくためには、過半以上の社員が会社の方針に賛同する必要がある、というのが私の持論です。

 最後の「仕事への誇り」ですが、これを持つためには、会社の社会的な使命を自覚することが必要だと思います。

 証券会社の使命は、わかりやすくいえば、お金を持っている人と必要としている人を結びつけることです。お金を運用したい個人や機関投資家と、事業資金が必要な企業を結びつけているのが証券会社です。社会の需要にあわせて、お金を循環させていく大切な役割を担っているのです。

 大和証券では、途上国の子どもたちを感染症から守るワクチン接種に調達資金が使われる債券「ワクチン債」を販売してきました。これは接種の普及を目指す国際機関が発行する外債で、返済の原資は各国からの寄付金があてられる仕組みです。

 言い換えると、投資のリターンを期待しながら、社会的なリターンも追求する商品です。大和証券では、「ワクチン債」以外にも、「グリーンボンド」や「マイクロファイナンス・ボンド」など、国際的な貧困や環境問題の解決に投資資金が利用される商品を販売してきました。これらの社会性のある商品を提供することは、社員に社会的使命を自覚してもらうきっかけにもなります。

 会社が持続的に成長する原動力は社員一人ひとりにあります。やる気を最大限引き出すのが、経営者のつとめなのです。(聞き手・古屋聡一)

検索フォーム

朝日新聞購読のご案内
新聞購読のご案内事業・サービス紹介

アンケート・特典情報