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2012年5月7日11時11分

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仕事のビタミン 稲野和利野村アセット取締役会議長11

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稲野和利(いなの・かずとし)1953年生まれ。東大法学部卒業後、76年野村証券入社、00年専務、03年野村ホールディングス副社長。09年野村アセットマネジメント会長を経て、11年4月から取締役会議長。経済同友会副代表幹事、投資信託協会会長、日本証券アナリスト協会会長。細川卓撮影

■贈る言葉

 電車の中や街で、「いかにも新入社員」というたたずまいの若者を目にすることの多い季節となった。思わず、「頑張れよ」と声をかけたくなる。

 今回は、人生を振り返って、彼らに贈る言葉を集めてみた。

◆自分自身をよく知る

 諸君は、たとえ新入社員であっても、今まで人生を生きてきた独立した人格であり、社会人としてそれぞれが独立した存在である。不安におののく前に、独立した人格としての自分自身に対して自信を持つべきである。

 その上で、自分自身に今、何があり何が欠けているかということを、冷静に日々の業務を通して把握していくことだ。それが明確になれば、必ず解決の道筋は見つかるものだ。

◆会社を知る

 営利企業の活動は、付加価値の創造活動である。付加価値の源泉が自分自身であるとなれば申し分ないが、諸君にそれを要求するのは酷であろう。

 付加価値の源泉は会社であり、会社の持っている機能である。それをいかに有効に使っていくかが重要だ。使いこなすためには、会社をよく知ることが必要である。今日あるものは全て歴史にさらされている以上、知るための手段はたくさんある。

 先輩に話を聞く、社史を読む、文献を読む、そして一番大事なのは、日々の業務活動を通じて会社を理解し、具体的なビジネスを作り上げていくことだ。

◆科学的・合理的精神

 最初はやることが多くて戸惑うだろうが、「時間をかければ何とかなる」と考えない方がよい。人間の生理をよく理解することだ。

 例えば、夜1時や2時に寝て朝5時半に起きるというような生活が長続きするはずがない。全ての仕事を体力の問題に還元して処理するのは不可能である。

 結局、この仕事やあの仕事をこなすためにはどれだけの時間が必要かという思考形式ではなく、決められた時間の中で処理すべき仕事の優先順位は何かということを考える方が、ビジネスの成功につながる。

 ビジネスとはまさに優先順位付けの作業である。そして、優先順位付けとは判断そのものである。

 非現実的な目標を設定してはいけない。非現実的な目標と高い目標は明らかに違う。目標設定は合理であるべきであり、考え抜くことによって合理に到達するというプロセスを大事にしたい。会社においては、精神論と結果論が幅を利かせやすい傾向があるという点には注意が必要だ。

 もちろん物事をやりとげる気概や意志力は極めて重要ではあるが、それにもまして科学的・合理的精神は重要である。

◆肯定的価値観を育む

 決してあきらめないことが重要である。会社という指揮命令系統の明示された組織においても、実は自分自身の意思によって実現できることは驚くほど多い。

 あきらめるのは簡単だし、人のせいにすることも簡単だが、嘆く前に行動することだ。会社生活を重ねれば分かってくることだが、傍観者になって批判や論評を繰り返すことは易しい。どんな提案であっても反対する理由のなにがしかは必ず見つかる。

 しかし、本当に重要なのは「スマートな発言」よりも「実行力」なのだ。あらかじめの完全さを求めるあまり、行動に躊躇(ちゅうちょ)があってはならない。

 行動した結果、間違うこともあるだろう。誰しも無謬(むびゅう)ではない。企業社会において、結果として無謬であることを保証するためには、「何もしない」という方法論しか残されていないであろう。

 何もしなければ、当然だが、いずれ立ち行かなくなる。何もしなければ何も生まれない。不作為は企業を衰退に導く。何かをすること。それは挑戦する、という言葉に置き換えられるであろう。そして、挑戦するからこそ失敗もある。

 「肯定的価値観」とは何か。単なる楽観主義ではない。どんな時でもあきらめずに、過去より未来がよくなることを信じて、自らの手でそのような未来を築くことを信じて、行動する力である。

    ◇

 諸君には十分な時間がある。若さという武器もある。10年後には諸君の会社の現経営陣はほとんど在籍していないであろう。20年後には誰一人として在籍していないであろう。一般に、会社に働く個人における残存、在籍時間と役職の高低は反比例の関係にある。役職の高低だけに注目して自分たちのなすべきことを過小評価すべきでない。

 残存時間の長い自分たちこそが未来に対する責任も重いと考えるべきであり、責任が重いからこそ発言する権利も十分にあると、積極的に考えるべきである。

 新入社員諸君。未来は君たちの手にある。

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