蜂の巣駆除 あなたなら 大野博人
2008年のリーマン・ショックの後、破綻(はたん)の危機に陥った多くの金融機関を各国政府が税金で救った。
これについて、取材したフランスの経済学者がこう話した。「市場は負けた。国家は金融システムが崩壊しないように介入して主導権を取り戻したんだ」
メモを取りながら「いや、国家は市場から、金融機関を助けないと社会を道連れに地獄に行くぞ、と脅されたのではないのだろうか」との思いがぬぐえなかった。
今も、国家がグローバル市場から「主導権」を取り戻せているようには思えない。その苦悩を体現している例の一つが税制ではないか。
大金持ちや大きな企業のお金は国境を越えて身をかわす。それほど大きくない国々で深刻化している悩みだが、日本が無縁というわけにもいかないだろう。消費税さえ国境のないネット売買にてこずりそうだ。
グローバル市場に対する税金の劣勢。米国では見かねた大金持ちから、社会を守るため「私たちに課税を」という声が出るありさまだ。
不利な闘いを乗り切るには、税で何を支えるべきかと、納税者自身がつきつめて考えるほかない。その意味で蜂の巣をめぐる千葉市での論争の射程は長い。
あなたなら近所の蜂の巣を行政に取り除いてと頼みますか、それとも税金が増えるくらいなら自分で何とかしようと思いますか?
■深淵をのぞきこむ時、深淵もまた、あなたを見ている
このシリーズは有田哲文、石松恒、大野博人、高久潤、多田敏男、中村真理、西本秀、根本清樹、橋田正城が担当しました。
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