(後藤正文の朝からロック)先人からの贈り物への返礼

後藤正文の朝からロック

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 東京大学名誉教授の石川幹子さんが「近代都市美・風景式庭園」としての神宮外苑について語る番組を動画サイトで視聴した。

 明治神宮や神宮外苑の森の歴史や、市民の憩いの場としての「苑」がどのような目的と意志によって作られたのかが分かりやすく解説されている番組で、最近話題になっている神宮外苑の開発による樹木の伐採の問題点について、とても勉強になった。

 なかでも驚いたのは、伐採される約900本の樹木の多くが、国民からの献木であるということだった。また、この土地は渋沢栄一らが多くの寄付金を集め、永久的な美観の統一を希望する文章と共に、明治神宮に奉献されたのだという。大正時代に植えられたという樹木は、震災や戦火を乗り越えて現在の市民に安らぎを与えている。

 これは東京のみならず、過去の日本を生きた先人たちからの100年越しの贈り物ではないかと思う。私たちは豊かな樹木を受け取ったのだ。贈り物に対しては返礼が必要だろう。それは何より、この樹木を含めた神宮外苑の風景を守り、未来の世代に手渡すことではないだろうか。

 都市開発が無用だとは思わない。しかし、先人の思いを踏みつけるような開発には心が痛む。そうした社会の先では、私たちもまた、かつての日本を生きた人間として容易(たやす)く踏みつけられる未来が待っている。

 (ミュージシャン)

 ◆隔週水曜掲載

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