(社説)韓国「非常戒厳」 民主主義 破壊する愚挙
大統領が「政治の停滞」を口実に戒厳令を宣言する。およそ民主国家であってはならない事態が韓国で起きた。約6時間後には解除に追い込まれたとはいえ、尹錫悦(ユンソンニョル)大統領は民主主義を危機に陥れた責任を認識し、自らの進退を含め国民の審判に真摯(しんし)に向き合わねばならない。
尹氏は「非常戒厳」を宣布した談話の中で、国会で野党が政府高官らへの弾劾(だんがい)訴追を進め、「行政府をまひさせている」と主張。「自由な憲政秩序を守るためだ」と正当性を強調した。
韓国憲法は「戦時などの国家非常事態」には大統領が戒厳を宣布できると定める。だが、そうした状況ではないのは明白だ。
戒厳司令部は、集会やデモなど一切の政治活動を禁じ、すべてのメディアが統制を受けるとする布告を出した。国民の権利に大きな制約を加える措置のどこが「自由な憲政秩序を守る」行動なのかも理解に苦しむ。異論を強権で封じ、権力にしがみつくための暴走にほかなるまい。
直接選挙で選ばれ、22年5月に大統領に就いて以来、米国や日本との関係強化などに力を入れてきた尹氏だが、内政では目に見える成果に乏しく、支持率の低迷に苦しんできた。
国民との意思疎通に欠く姿勢が「独善的」と批判され、今年4月の総選挙で与党が大敗。政策遂行がままならない窮状が一層深まっていた。
だが、どれほど困難が伴おうとも、熟議と対話で粘り強く合意形成を尽くすことこそが民主主義の根幹だ。
韓国は長く軍事独裁政権が続き、戒厳令は民主化を求める国民を力で抑えつけた。そうした苦難と国民の粘り強い闘争を経て1987年、民主化を勝ち取った歴史がある。
その後、民主的選挙による政権交代を繰り返し、成熟した民主主義国家となった。深刻な社会の分断など様々な課題を抱えるが、その打開や改善に向けた動きもまた、民主的な手続きにのっとって進められるべきものだ。
尹氏の求心力は大きく損なわれ、野党は尹氏の弾劾訴追案を国会に提出した。韓国政治の混乱は続くとみられる。尹氏のふるまいは、北朝鮮との緊張が続く朝鮮半島情勢にも悪影響を及ぼしかねない愚挙だったともいえよう。
今回注目されたのは、戒厳軍が迫る中、与野党議員らが駆けつけ、非常戒厳の解除要求決議案を可決した国会の対応であり、それを支援した市民の存在だった。権力の暴走を止めた民主主義の底力を評価したい…
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