(社説)ナワリヌイ氏 弾圧国家が恐れた勇気

社説

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 違法な侵略戦争を進めながら、市民からの正当な批判を恐れ、封殺する。プーチン体制の危険性だけでなく、その本質的な弱さも浮き彫りにされたとみるべきだ。

 ロシアの反体制派指導者ナワリヌイ氏が、獄中で急死した。47歳だった。直接の死因は不明だが、過酷な環境で自由を奪われていたことを考えれば、プーチン政権による弾圧が引き起こした悲劇であることに間違いはない。

 ナワリヌイ氏は2000年代から、政府高官の隠し資産や豪邸などを暴露するブロガーとして人気を集めた。

 特筆すべきは、その動員力だった。ネットでデモを呼びかけると、全土で呼応した若者が街頭に出て「プーチンなきロシア」などのスローガンを叫んだ。近年は与党候補の落選運動に取り組み、政治的な存在感も増していた。

 これにプーチン政権は徹底した弾圧で応じた。20年8月に毒殺未遂事件に遭い、意識不明になってドイツで治療を受けた。ロシアの治安機関が関与した疑いが濃厚だ。

 このときプーチン氏は、ナワリヌイ氏が米情報機関の手先だと主張した。訴追をちらつかせて帰国を断念させる狙いだったとみられる。

 それでもナワリヌイ氏は帰国を敢行し、空港到着直後に拘束された。「過激派組織を創設した罪」で禁錮19年の判決を受け、昨年末に北極圏の刑務所に移送されていた。

 プーチン氏がなにより恐れたのは、ナワリヌイ氏のカリスマ性だけでなく、強権にひるまず逮捕にも屈しない勇気がロシア社会に広がる事態だったのではないか。

 プーチン政権はナワリヌイ氏の死と、死に至る過程について、外部の調査を受け入れるべきだ。政権批判による市民の拘束も認められない。

 来月ロシアで行われる大統領選で、プーチン氏の5選は動かない情勢だ。しかし、それは民主的な手続きとは到底、言えない代物である。

 本来、ウクライナでの戦争をどう終わらせるかが最大の争点になるはずだ。だが、侵攻への異論は厳しく封じられている。政権に批判的な人物は書類の不備を理由に立候補登録を拒まれた。プーチン氏以外に立候補が認められたのは、いずれも侵攻を支持する「体制内野党」と呼ばれる3党からだけだ。

 民主主義を求める市民の勇気まで力で抑え込むことはできない。口をふさぎ、候補者の顔ぶれまで操作して行う選挙でいかに圧勝を演出したところで、その統治に正統性はない。その弱点をプーチン氏は自覚する必要がある。

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