(社説)台湾総統訪米 過剰反応 避けるべきだ

社説

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 民主的に選ばれた政治家同士の交流が非難されるいわれはない。台湾の蔡英文(ツァイインウェン)総統が米ロサンゼルス郊外でマッカーシー下院議長らと会談した。中国は強く反対したが、これまでの米台接触の慣例の範囲内ともいえる。冷静な対応に徹するよう中国には求めたい。

 台湾を自国領土の一部とする中国の主張は、米国や日本など主要国も尊重している。にもかかわらず「台湾独立」勢力を率いる蔡総統と米国の要人が会うのは、米国が台湾を中国と別の国として扱うのに等しい――というのが中国の言い分だ。

 確かに米国の下院議長は大統領権限の継承順位が副大統領に次ぐ2位の要職だ。だが今回は米台ともに中国を刺激しないよう、配慮を尽くした。

 昨年夏、当時のペロシ下院議長が訪台した時に中国は、大規模軍事演習で強く反応した。

 マッカーシー氏も訪台を望んだが、蔡氏の中米訪問後の「立ち寄り」の形で会うことを受け入れ、場所も首都ワシントンを避けた。米国側で迎えたのは議員主体で政府ではなかった。米国は約束に違反しているとの中国の非難はあたらない。

 もちろん、蔡氏ら台湾与党の民進党には政治目的がある。対中緊張が続く中、来年初めの総統選に向けて米国の後ろ盾を台湾の有権者に示すことだ。マッカーシー氏は会談後、「米国の台湾の人々への支持は揺るぎない」と、期待に応えた。

 一方、蔡氏に日程をぶつける形で、台湾の最大野党・国民党の馬英九氏(前総統)が中国各地を訪問している。中国と距離を置こうとする民進党と逆に、国民党は対中融和を唱える立場だ。台湾の2大政党の対立が米中の対立構図と重なるところにこの問題の複雑さがある。

 中国は馬氏を歓待する一方で、中米ホンジュラスを台湾と断交させて中国との国交を結ばせた。台湾が蔡政権になってから断交は9カ国目だ。経済力にものを言わせたなりふり構わぬ外交だが、こうした圧力は台湾世論の反発を招き、かえって民進党を利しかねないことを習近平(シーチンピン)政権は認識すべきだ。

 過去、独裁をくぐり抜けて民主化を遂げた台湾の多くの市民にとり、共産党支配の中国の統治下に入るのは受け入れがたいのが現実だ。中国は「一国二制度」による統一を提案しているが、自治が事実上否定された香港をみれば説得力を欠く。

 中台双方を納得させられる解決策が見いだせない以上、現状維持こそが唯一の賢明な選択だろう。米中も、台湾問題は脇へ置き、国際社会に対して責任を負う大国同士として関係改善を図るべきだ。

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