(フォーラム)どうするローカル鉄道:2 将来に向け

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 ■記者サロン

 鉄道会社は、ローカル線のあり方を見直そうとしています。バス転換を含めた議論を迫られる自治体はどう向き合うのか。国はどう関わるべきか。オンライン記者サロン「どうするローカル鉄道~地域の足を考える~」(配信中)を開き、当事者の主張をもとに考えました。

 ■地域のため、安定運営へ資産を活用 JR東日本・深沢祐二社長

 国鉄が民営化した1987年から36年が経ち、ローカル線を取り巻く環境は変わりました。高速道路の整備が進んで車中心の生活に転換した。都会に出た若者は戻ってきません。

 我々はローカル線の赤字を、首都圏で出した黒字で補ってきました。この「内部補助」という仕組みは、人口減少でローカル線の赤字が膨らみ、成り立たなくなるという危機感があります。

 ここで、鉄道が地域の役に立っているかどうかについて話をさせていただきたいと思います。議論の材料とするため、昨年、1日1キロあたりの平均利用者数(輸送密度)2千人未満の路線の収支を公表しました。

 これには先行事例があります。福島県内を走るJR只見線は2011年の豪雨で橋が流され、どう復旧するかについて、地元と相当話しました。我々はバス転換を提案しましたが、沿線自治体としては、鉄道として残し、観光で地域を活性化したいということでした。地元には、施設の維持費を負担する「上下分離方式」という重い決断をしてもらいました。昨年10月に再開し、多くの方に乗っていただいています。

 地元にお話ししているのは、「我々は地域からいなくなりません」ということです。我々の事業は当初、ほぼ鉄道だけでしたが、今は駅に診療所を開き、特産品を運ぶ物流分野もあります。地域に貢献できます。

 あるべきは、まちづくりの議論です。まず、まちをどうしたいかを決め、それを支える交通手段を考える。バスなどに転換した場合は、ITで複数の交通手段をつなぎ、スムーズに目的地に向かう「MaaS」というシステムで全国のネットワークをつなげます。

 鉄道事業を安定的に運営していくために、資産の有効活用は進めないといけません。東京の品川・高輪周辺の車両基地の跡地で、大きな開発を行っています。所有する資産の活用で社会に新しい価値を生み出し、鉄道事業や会社そのものをサステイナブル(持続可能)にしていく使命があります。

 公共交通の維持費を誰が負担するかについては、国によって考え方が違います。欧州では、公費を投入することで成り立っています。日本では国鉄時代に赤字が膨らみ、ローカル線を整理して自主自立でやることにしました。私は、民間事業者の良さはもっと発揮できると思います。公費を入れれば経済原則から外れ、非効率になり、国鉄に逆戻りしてしまいます。

 ■暮らしやすい交通サービス、議論を 東京女子大・竹内健蔵教授

 JR東日本と西日本が昨年公表したローカル線の収支は、企業秘密にあたる非常に重要な数字です。それをあえて公表したということは、JRの本気度を示しています。国鉄の民営化時は、人口減少がここまで進み、地方から人がいなくなることを想定できませんでした。

 ローカル線のあり方を検討する国土交通省の有識者会議で、私は座長を務めました。昨夏にまとめた提言では、「輸送密度が1千人未満の路線を目安に、沿線自治体と事業者に議論を促し、国が積極的に関わる」としました。

 ただ、その後、この「1千人」という数字は独り歩きをしています。これはあくまで目安で、存続か廃止かの白黒をつけるものではありません。1千人以上の路線でも決して黒字ではない。地域にあった交通サービスを考えるのであれば、仮に目安を上回った場合でも議論は必要なのです。

 国鉄民営化をした時は、鉄道からの転換策がほぼバスしかありませんでした。いまは専用道を走るBRTバス高速輸送システム)を選ぶこともでき、これは有効な手段です。鉄道施設の所有を自治体に移す「上下分離方式」も、鉄道事業者の負担を軽減するという意味では効果的です。

 ただ、上下分離方式は鉄道の運行と所有の主体が異なるので、新しいサービスを始める場合などには障害にもなり得ます。富山市が導入したLRT(次世代型路面電車)は「地方交通の救世主」と言われますが、成功の背景には都市構造を変える政策もあった。LRTを導入しさえすれば成功する、ということではないのです。

 被災時の避難や物流の手段として、鉄道を残すべきだという主張があります。ただ、津波がくれば、高速道路も避難場所になるというメリットがある。何が良いかはケース・バイ・ケースであり、鉄道を残すための後付けの理由にはしてほしくないと思います。

 鉄道は環境に優しいと言われますが、誤解されることがよくあります。過疎地では、鉄道車両1両でお年寄り1人を運ぶと莫大(ばくだい)なエネルギーを使うので、軽自動車で移動する方がよほど良いでしょう。鉄道が環境に良いのは、定員通り乗客が乗っていることが前提です。

 新聞には「廃線危機」などの見出しが躍ります。こうした後ろ向きの考えは事業者と自治体の無用な対立を招いてしまう。住みやすいまちをどうつくるかが本来の目的です。廃止か存続かは脇に置き、何が暮らしやすい交通サービスなのか、前向きな議論を期待します。

 ■廃線進んだ北海道、バスすら廃止も

 北海道報道センターの堀篭俊材・編集委員からは、将来を占う事例として北海道の状況が語られました。

 北海道では、全国に先駆けてローカル線の見直し議論が起きました。背景には、人口密度の低さという地域特有の事情に加え、2010年代の前半に事故や不祥事が相次ぎ、JR北海道の経営の悪化に拍車がかかったことがあります。

 旧国鉄から継承した「特定地方交通線」を含め、民営化後の約35年間で東京―大阪往復にほぼ相当する約1千キロが廃線になりました。今後も留萌線、根室線の一部などで廃線・バス転換が続く見通しです。地元では「大雪でも止まらず、バスの方が便利」と冷めた声も出ています。

 ただ、高齢化が進めば、車で移動出来ないお年寄りも増えます。利用者が減ればバスすらも無くなる可能性があります。廃線・バス転換はどこまで持続可能性があるのか、見極めていく必要があります。

 道南西部の喜茂別町と伊達市を結ぶバス路線は昨年、一部で廃止されましたが、元々は胆振線という鉄道でした。バス転換時に国の交付金で作った運営を支えるための基金も、あと数年で底をつく見通しです。

 喜茂別町の内村俊二町長は「『あとは地域に任せる』と言われても、赤字バス路線をずっと維持する財政的な余裕は小さな自治体にはない」と話していました。

 道路は税金で更新されますが、鉄道・バスは民間企業や地方自治体に命運が委ねられます。加速度的に人口が減少するなかで、地域の足をどう維持するか。広く薄く支える仕組みを整える時期に来ているように思います。

 ■視聴者から 感情論よりも現実/対岸の火事でない

 オンライン記者サロン「どうするローカル鉄道~地域の足を考える~」を視聴した方々から寄せられた声の一部を紹介します。

 ●鉄道輸送が地域にとって最適かどうか。地域にとってどういう形が望ましいのか。路線の特性や公費、環境面など、地域交通を考えるために必要な観点を考えることができてよかった。(埼玉、男性、30代)

 ●なぜローカル線が問題になるか。株主ばかり見るようになった事業者や、とんでもない田舎にまで張り巡らされた高速道路など、国全体の交通のあり方が問われているのではないか。(神奈川、男性、50代)

 ●私も田舎に住んでいる。JRを全く利用したことがなく、今後もどんな風に利用できるか、考えさせられました。(島根、男性、60代)

 ●地域住民にとって、路線の廃止は地域が見捨てられるという思いにつながるため、まず反対という動きにつながります。地域活性化のためにどんな交通手段が適切かの議論が必要、ということが目からうろこでした。(長野、男性、60代)

 ●当方が住む地方でもJRは赤字路線で、存続を願う運動も起きています。残したいという感情論よりも、現実に誰が必要としているのか、代替交通ではだめなのだろうかと考えました。(千葉、60代)

 ●都会に住んでいると、なかなかこの問題について考えることが少ないが、日本の人口減少問題と合わせて対岸の火事ではなく、考えたいと思いました。(東京、女性、50代)

 ●ローカル線の存続のための費用がどこから出ているのか。東京の人たちから出ていることに驚きました。(福岡、女性、40代)

 ◇福岡県で育ち、高校は近隣のまちに電車通学をした。田舎とはいえ、最寄り駅では長くても30分以内に電車が来たので、不便は感じなかった。乗車時は「都会」に出るという高揚感もあり、今でも思い出深い。

 もし、その路線がなくなると言われたら、「ちょっと待って」と思わず声を上げるだろう。

 使い慣れた鉄道を失うことに地方の人たちが慎重になるのは、ときに感情論だとも言われるが、JR東日本の深沢祐二社長も「私も鉄道屋。郷愁を持っていただくのは大変うれしい」と語り、一定の理解を示す。

 一方、取材で目にしたのは「空気を運ぶ列車」だった。駅前に住む人たちでさえ「何年も乗っていない」と言う。役割を終えた路線もあると思う。フォーラム面で募ったアンケートでも、今の鉄道を見直すべきだという回答が過半数を占めた。

 郷愁は断ち切りがたいが、今のローカル線をそのままにするのは、問題の先送りにしかならない。粘り強く議論を重ねるしかないと感じる。

 ◇鉄道のローカル線問題にどう向き合うかを考えるオンライン記者サロンを、5月1日まで配信中です。鳥取県平井伸治知事とJR東日本の深沢祐二社長のインタビュー映像を交え、国のローカル線の検討会で座長を務めた東京女子大の竹内健蔵教授と記者が議論しました。

 申し込みは募集ページ(https://ciy.digital.asahi.com/ciy/11010355別ウインドウで開きます)、またはQRコードから。

 ◇松本真弥が担当しました。

 ◇アンケート「どうする少子化」「スポーツでの暴力・ハラスメント・体罰、どうなくす?」をhttps://www.asahi.com/opinion/forum/で募集しています。

 ◇来週4月2日は「マッチングアプリ婚」を掲載します。

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