(社説)防衛費の増額 看過できぬ言行不一致

社説

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 防衛力の強化をめぐり、岸田首相は「内容と予算、財源を一体で議論する」と再三繰り返してきた。しかし実際には「規模ありき」の予算に身の丈を超えた内容を詰め込み、肝心の財源は実体を欠くままでの見切り発車になった。重大な言行不一致であり、看過できない。

 首相はおとといの安保関連3文書決定後の会見で、防衛費の安定財源確保について「今を生きる我々が未来の世代に責任を果たす」と述べた。だが、示された「財源」はどれもあやふやで、「未来に責任を果たした」とは到底言えない代物だ。

 柱の一つとされる決算剰余金の活用は、例年の補正予算財源を転用することを意味し、今後補正を組めばその分、赤字国債が増える。歳出改革による捻出も、5年間で1兆円強を積み上げるとしながら具体策はなく、「絵に描いた餅」になるのが目に見えている。

 増税も、法人税所得税などを上げる枠組みは固めたが、自民党内の猛反発で実施時期は決めなかった。先送りに等しい。防衛費の大幅な増額を声高に求めながら、増税の話には及び腰になる自民党議員は無責任の極みだが、これを財源確保と称する首相も大同小異である。

 さらに首相は、戦後初めて防衛費に建設国債を充てる方針を決めた。隊舎や倉庫などの施設整備を念頭に置いているようだが、歴代政権の不文律を破り、野放図な軍拡への歯止めをはずすことになる。

 自らの発言を次々に覆し、歴史から学んだ大事な教訓もないがしろにする首相の姿勢には、確固たる信念がうかがえない。このまま進めば財源確保が行き詰まり、結局次々と国債で防衛費をまかなうことになるのではないか。

 そもそもまともな財源を示せないのは、防衛費拡大が国力を超えているからだ。今後5年で計43兆円との額を先行させ、専守防衛を空洞化させる敵基地攻撃能力に巨費を投じる。その判断の誤りは、大きな禍根を残すだろう。

 戦後の安全保障政策の一大転換でありながら、決め方もあまりに拙速だ。とりわけ、増税を含む財源確保策が国民に見える形で議論されたのは、わずか1週間しかない。

 恒久的な増税ならば、税制全般について将来に向けたあるべき姿をあわせて示すことが必須である。富裕層に有利な金融所得課税などのゆがみにはほとんど手をつけずに、復興特別所得税の仕組みの転用を打ち出すのは、安易に過ぎる。

 防衛力強化の中身、予算、財源について、一体での議論のやり直しが必要だ。

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