(社説)ペロシ氏訪台 軍事的な緊迫、回避を

社説

[PR]

 米国と中国の2大国が軍事力を動員して向き合う危うい事態である。双方とも望まぬ衝突を避けるために、冷静な意思疎通による沈静化を図るべきだ。

 ペロシ米下院議長が台湾を訪問し、蔡英文(ツァイインウェン)総統と会談した。大統領職の継承順位2位の要職である下院議長の台湾入りに、中国は強く反発している。

 台湾を囲む海域で実弾も使う軍事演習をすると発表した。実行者は不明だが、台湾総統府へのサイバー攻撃も起きた。

 三権分立の米国で、議会の長が必ずしも政府の意向を反映しないことを中国は理解しなければならない。文民の平和的な交流訪問に対し、武力を振りかざす示威行動は許されない。

 そもそも中国が、自らの言うことを聞かない蔡政権に圧力を強めてきたことが、最近の情勢悪化の主因である。穏当な秩序を守るべき大国の責任を、中国は忘れてはならない。

 一方、ペロシ氏の行動についても疑問を禁じ得ない側面がある。なぜ、この時期を選んだのか。政府と一線を画す立場なりに、地域の安定に資する外交戦略を描いていたのだろうか。

 中国はいま、共産党指導部と党長老らが非公式に集まる北戴河会議が始まる頃である。秋には習近平(シーチンピン)氏のトップ続投がかかる党大会が予定されている。

 米国側も11月に中間選挙を控え、ペロシ氏の与党が議席の過半数を維持できるか注目されている。米中ともに内政に寄せる関心が高まり、対外強硬論が勢いづきやすい微妙な時期だ。

 そんな折にペロシ氏があえて耳目を集める訪問を行い、中国との対決色を打ち出す一方で、台湾海峡問題の平和的解決への方策を公に語ることがなかったのは残念である。

 この訪台に合わせて、米軍は空母を含む艦船を展開して警戒を強めている。米中双方が多くの戦力を動員して対峙(たいじ)すれば、偶発的な衝突のリスクは一気に高まるだろう。

 ロシアの侵略戦争が示すように、大国による強硬行動は計り知れないゆがみをもたらす。とりわけ台湾問題をめぐる米中のふるまいは、世界の安全と経済を左右する重大問題であり、細心かつ慎重な注意を要する。

 自らの力を過信して制御を失ったロシアの教訓を、米中は学ぶべきだ。不毛な力の誇示や挑発を自制し、安定した対話の環境を持続する静かな外交に立ち戻る必要がある。

 ペロシ氏は今回の歴訪で日本も訪れる。今週にカンボジアであるASEAN関連外相会議では、日中外相会談も予定されている。緊張緩和に向け、日本も米中の「橋渡し役」の役割を十分に発揮すべきときだ。

有料会員になると会員限定の有料記事もお読みいただけます。

【お得なキャンペーン中】有料記事読み放題!スタンダードコースが今なら2カ月間月額100円!詳しくはこちら